目次
1.扶養の義務とは
(1)親族間での扶養義務
民法は、第4編「親族」の第7章に「扶養」ということで、一連の規定を設けています。
「扶養」とは、辞書的な意義では「親族に対する経済的な援助」といえるかと思います。
身近なところでは、所得税にかかる年末調整において「扶養控除」という言葉が登場します。
民法においては、一定の親族間において、互いに扶養する義務があると定められています。
ただし「扶養義務」は、自らの生活を切り詰めてまで義務の履行を求められるものではありません。
法律上は、つぎのように定められています。
- 自らに余力がある範囲において
- 扶養を求める親族が最低水準の生活を営めるような程度
- 金銭的な援助をする
ただし、具体的な内容(金額)は「当事者間で協議をして決める」としており、協議が整わない場合には「家庭裁判所が審判により決める」となっています。
(2)夫婦間での扶養義務(生活保持義務)
一方で、夫婦間においては、民法は単なる「親族」とは異なった定めを置いています。
それは、民法752条の「生活保持義務」です。
(条文の場所も、第2章「婚姻」第2節「婚姻の効力」の箇所におかれています。)
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
「扶助」という言葉の意味合いですが、一般的な解釈としては、「自分の生活に余裕があるかどうかは関係がなく、相手方の生活を自分自身の生活と同じ程度に保障すること。」とされています。
「自分の生活に余裕があるかどうかは関係がなく」「自分自身の生活と同じ程度」というところが、扶養とは大きな違いです。
2.扶養に関する条文の確認
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(扶養義務者)
第八百七十七条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。(扶養の順位)
第八百七十八条 扶養をする義務のある者が数人ある場合において、扶養をすべき者の順序について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。扶養を受ける権利のある者が数人ある場合において、扶養義務者の資力がその全員を扶養するのに足りないときの扶養を受けるべき者の順序についても、同様とする。(扶養の程度又は方法)
第八百七十九条 扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)
第八百八十条 扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。(扶養請求権の処分の禁止)
第八百八十一条 扶養を受ける権利は、処分することができない。
3.「誰が」「誰に対して」扶養義務を負うのか
(「叔父(叔母)と甥(姪)」の関係においては?)
(1)直系血族及び兄弟姉妹の間
直系血族ということなので、家系図を書いたときに上下の関係にある人同士では、扶養義務があるということになります。
また兄弟姉妹間も同様です。
「叔父(叔母)と甥(姪)」は、ただ親族関係にあるというだけでは、扶養義務を負う関係にはないということになります。
(2)特別の事情があるときは「三親等内の親族間」においても扶養義務が
原則的に、「叔父(叔母)と甥(姪)」のあいだに扶養義務はありません。
ただし、「叔父(叔母)と甥(姪)」は3親等の親族にあたるため、「特別の事情」があるときは扶養義務が発生することになります。
具体的な案件で「特別な事情」に該当するか否かは、弁護士に相談して慎重に判断するべきでしょう。
一般論としては、「特別な事情がある」という認定は、かなり限定的に解釈すべきと言われています。
(民法の立法過程においても、三親等内の親族間における扶養義務の廃止が検討されてたようです。)
参考:松川正毅=窪田充見編『新基本法コンメンタール 親族[第2版]』352頁以下(日本評論社2019)
4.扶養請求権?公的扶助との優劣?
(1)扶養義務の履行を請求する
あらためて条文を確認
(扶養の程度又は方法)
第八百七十九条 扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。
当事者間での協議。
協議が整わないときには、家庭裁判所が審判で定める。
(2)公的扶助との関係は
生活保護法4条との関係。
通説的な解釈としては「扶養義務者が現実の扶養を行った場合には、生活保護の必要性が減じて、その限りにおいて保護が受けられなくなる」という考え方。
私的扶養が公的扶助に優先するものとは考えられていない。