成年後見制度の在り方に関する研究会をみる(その2)

なお、以下は上記掲載資料から、筆者の気になるところを抜粋したり、適宜加筆したりしたものです。
原資料との関係で、網羅性や、抜粋箇所の意義の同一性を保証するものではないので、ご留意ください。

1.適切な時機に必要な範囲・期間で利用する制度の導入に関する検討の必要性について

本人の具体的なニーズや成年後見制度以外の本人支援のための環境等を踏まえ、必要な範囲・期間に限定して成年後見人等に権限を付与する制度の検討

(1)指摘されている点

  • 現行の成年後見制度の課題として、一度成年後見制度の利用を開始すると、利用をやめることができず、利用の目的や原因となった一定の課題が解決した後も、終身にわたり、広範で包括的な代理権が付与され続ける
  • 後見等の開始の審判をするに当たり、本人にとっての必要性や、家族や他の制度による支援の状況を考慮することなく、本人の判断能力の状態のみを見て、一律に成年後見制度の利用につなげてしまっている

(2)指摘されている点に対する対応案

  • 申立時に類型を分けて申し立てるのではなく、本人にとって必要な代理権や同意権・取消権が如何にあるべきかが十分に検討され、過不足なく権限付与される仕組みが必要
  • 利用者のニーズに応じて適時・適切に利用し、終了することのできる有期かつ限定的な制度とすべき

2.適切な時機に必要な範囲・期間で利用する制度を導入した場合の本人の法律行為について

(1)想定される状況

判断能力を欠く常況にあるとして、いったん後見が開始された者について、本人の病状等の回復といった事情がない場合であっても、成年後見制度が利用されず、又は成年後見人が選任されていない状況が生じることを民法が許容することに・・・。

成年後見制度が利用されていない状況になるということは、本人は、成年後見制度による保護を受けられなくなることを意味する。

成年後見制度を利用していた者との間の法律行為は、事後的にその効力が争われる事案が増えると考えられると、取引相手たる第三者は、紛争リスクを回避するため、そのような者と法律行為を行うこと自体を回避する可能性。

(2)民法上の意思能力に関する規律

意思能力 = 意思能力を自己の行為の法的な意味を理解することができる能力と解して個別具体的な法律行為の内容に即してその存否が判断されるもの(ただし、意思能力の定義については、さまざまな意見が主張され、意見の一致をみなかったことなどから、その定義規定を設けることについてはH29年民法改正においては見送り。)

民法上の判断能力 = 事理弁識能力と同義のもので、法律行為の結果による利害得失を認識して経済合理性に則った意思決定をする能力であり、著しく不十分、不十分、欠如といった程度を観念し得る概念

(3)本人及び取引の相手方の保護について

行為能力制度の趣旨

表意者において、意思表示の時点における判断能力の有無を事後的に証明して当該法律行為の無効を主張することが困難な場合があることや、意思表示の相手方において、表意者が意思能力を欠くことを知り得ず、トラブルの発生を事前に回避することが困難な場合があることなどから、類型的に一定の法律行為について成年後見人等による代理又は取消しを認めた上、取引の相手方が事前にその旨を確認できるようにして、本人及び相手方の保護を図るもの。

適切な時機に必要な範囲・期間で利用する制度を導入し、判断能力を欠く常況にある者が自ら法律行為ができるとした場合には、上記のような取引における困難が生じることを回避できず、その結果、判断能力を欠く常況にあると思われる者との取引が敬遠されるなどして、本人の地域社会への参加等が阻害されるおそれ。

⇒取引の相手方の保護の観点から、上記のとおり、判断能力を欠く常況にある者による取引行為として主に想定される日常生活に関する行為について、意思能力を欠く状態でされた場合であっても有効とする旨の規定を設けることも考えられる(H29年民法改正でも検討されたが見送り。)。

一方で、判断能力を欠く常況にある者による取引行為として主に想定されるのは、民法第9条ただし書に規定される「日用品の購入その他日常生活に関する行為」であると考えられるところ、現に日常生活に関する行為が行われた場合において、それが意思能力を欠く状態で行われたと評価されることは、現実にはまれであるとも考えられる。

⇒懸念が現実化する場面は限定的??

3.後見の開始要件や終了事由の見直し

(1)制度枠組み

本人の保護のために制度利用の必要があることを後見の開始要件とした上で、後見の開始後において、制度を利用しなくても本人保護に欠けるところがないと認められるに至ったときは、後見の開始要件が消滅したものとして、後見開始の審判又は成年後見人選任の審判を取り消す。

(2)制度導入のメリット

成年後見人による代理権や取消権の行使の予定が存在せず、本人保護のために後見制度を利用する必要がなくなった場合には、後見開始の審判又は成年後見人選任の審判を取り消すことができるようになるため、事案に即した合理的な対応が可能に。

(3)制度導入のデメリット

本人が判断能力を欠く常況にあることには変化がないにもかかわらず、一旦開始された後見制度の利用が終了すること、又は成年後見人が選任されていない状況となることを民法が許容することになる。

本人が意思能力を喪失した後も、任意代理人や親族等によって保護を受け、財産管理等に格別の不安がないときは、後見制度が利用されないことを法的に是認することになる。

(4)導入する場合の検討事項

  • 後見開始の審判の有効期間
    後見開始の審判の取消しという手続を経ることなく、成年後見制度の利用が終了することを可能と
    する。当事者や裁判所の負担軽減。成年後見人に有効期間を更新することを家庭裁判所に求める
    ことができるようにすることが考えられる。
  • 適切に本人保護の必要性の有無を判断できるようにするための枠組み
    裁判所が当該判断を行うに当たって、「本人の病状や生活状況、本人への支援の状況や今後の見通し等」についての情報又は専門的知見を有する一定の機関・団体からの意見聴取を必要的なものとする。
    「持続可能な権利擁護支援モデル事業」とも関連!!)
  • 本人保護の方策
    本人保護のために後見開始の審判を維持すべき場合には、成年後見人選任の審判は取り消すが、後見開始の審判は取り消さずに維持されたままとするといった法的状態を許容する。
    (後見開始の審判と成年後見人選任の審判を切り離す!)
    (これにより、成年後見制度支援預貯金・成年後見制度支援信託を引き続き利用することができる?!状況に応じて、成年後見人を再度選任することも可?!)

こういった立法論は非常に面白い。
後見開始の審判と成年後見人選任の審判を切り離すという運用は、本人保護の方策ともバランスがとれるうえに、法的な整合性もあるように思う。

4.成年保護特別代理人制度の創設について

(1)制度枠組み

端的に、本人の意思能力が欠けた場合において特別代理人を選任する制度を導入すること。

(2)制度導入のメリット

本人のニーズが特定の具体的なものに限定されている場合には、そのニーズがある場面に限って代理人を選任することができる。

【以下コメント】

個人的には、所有者不明土地において相続登記が放置されている案件で、遺産分割調停を利用するケースにおいて、こうした制度があると非常に良いと思う(実際に、特別代理人で対応しているケースもあると聞く。)。
とりわけ問題となる不動産の価値が低く代償分割で問題なく処理できるケースにおいては、わざわざ遺産分割のために成年後見人を選任するのは・・・。

一方で、相応の財産を得るケースでは、取得後のケアも必要になるように思う。
その点については、P.11「もっとも、遺産分割によって不動産等の財産を取得した場合など、遺産分割が終了したとしても、遺産分割によって取得した財産の管理等が必要となる事案も生じ得るが、そのような場合には、新たに代理権を付与するなど事案に応じた柔軟な対応が必要になると考えられる」。

(3)制度導入のデメリット

本人が一定の法律行為を行う能力を欠くことが明らかになったにもかかわらず、後見制度が利用されず、又は、成年後見人が選任されていない状況を法的に是認することにもなり、現行制度と比較すると、本人保護が徹底されないこととなる。

そのような状況を法的に是認することは、明確な法的根拠に基づかない親族等による本人の財産の管理を正面から認めることにもなり得る。

(4)導入する場合の検討事項

  • 意思能力の有無を要件にするのか、判断能力の程度を要件にするのか
  • 補充性の要件を設けるか
    代行意思決定(代理制度)は、最終手段としてのみ許容されるとする立場からは、「成年保護特別代理人制度によらなければ、本人の権利・利益を保護することができないこと」といった要件を設けることも考えられる。
  • 成年保護特別代理人に財産調査義務等を課すか
    (例えば、同居の親族が本人の財産を使ってギャンブルに明け暮れるなどしている場合などを念頭に)本人保護の観点から、成年保護特別代理人に財産調査義務を課すことで、上記のような事情についても当然把握した上で、是正策を講じさせることまで職務とするか。
  • 成年後見制度の申立権を付与するか
    本人の保護の観点から必要がある場合には、成年後見制度に繋ぐことができるように、成年保護特別代理人に成年後見制度の申立権を付与する

個人的には、必要な制度だなぁと思う。
成年後見制度と矛盾するとの指摘もあるが、ここは「補充性の原則」の出番だろう。
ポイントは、本人保護の観点であり、ここは「成年後見制度の申立権を付与」で良いのではないか。

(所有者不明土地の解消のための遺産分割調停を念頭に置いて)

  1. 遺産分割協議
  2. 判断能力に疑義のある相続人が発覚
  3. 成年保護特別代理人を選任
  4. 成年保護特別代理人が本人の財産調査を実施
  5. 成年保護特別代理人を含めて遺産分割調停が成立(調停に代わる審判も?)
  6. 本人保護の必要性があれば、成年保護特別代理人が成年後見制度の申立て。
  7. 後見人が本人財産を整理。
  8. 後見人が辞任(一方で後見開始審判は継続。参照前記3(4)。)

「4」の財産調査のところの理解が間違っているかもしれないが、いずれにせよ相応の事務作業量になるので、報酬負担の問題は残るか。よもや報酬の本人負担?!

5.成年後見制度の制度枠組みの見直し

(1)考えられる全体像

大きな方向性としては、つぎの3つ。

  • 成年保護特別代理人制度を導入し、基本的に現行の成年後見制度を維持する。
  • 成年保護特別代理人制度を導入するとともに、成年後見制度の見直しもする。
  • 成年保護特別代理人制度は導入せず、成年後見制度の見直しをする(一元的制度とすることとした場合には、成年保護特別代理人制度を敢えて導入する必要がない?)。

(2)現在の制度及びそれを前提とする制度等

民事実体法や訴訟手続等に関する法律には、現在の成年後見制度を前提とする制度が設けられているほか、多くの法律で現在の成年後見制度に関係する制度が設けられている。
成年後見制度の見直しに当たっては、こうした他の制度への影響など、国民生活への影響も十分考慮する必要がある。

(3)行為能力制限の見直し

現行制度における「取消権」は、本人保護のために設けられた規定であるが、本人の法律行為が将来取り消される可能性が生ずることから本人の自己決定に対する制約という側面がある。
また、(個別具体的な判断ではなく、)定型的に行為能力を制限することから、制限する必要のない事項についてまで行為能力制限がされている場合があるとも考えられるところであり、その見直しの要否について検討する必要がある。

なお、補助類型における同意権の付与は、本人の請求又は同意が必要であるので、これについては見直す必要がないとされる。

方向性としては、つぎのとおり。

  • 現行制度を維持する
    現行制度においても、本人は自ら有効な法律行為をすることが可能であり、本人に不利益な法律行為であった場合などにおいて、本人又は成年後見人がこれを取り消すことができるというにすぎないから。
  • 現行制度を基本的に維持した上で、取消権の行使に制限を設ける
    本人保護の観点から行為能力制限に関する規定は必要であるが、成年後見人や保佐人による取消権の行使が本人の自己決定権を制約するという側面があること等を踏まえて、成年後見人や保佐人の取消権の行使に対して一定の制限を設ける。
  • 現行制度を基本的に維持した上で、保佐人の取消権の対象事由を限定する
    本人保護の観点から行為能力制限に関する規定は必要であるが、本人に判断能力が認められる類型である保佐類型において、保佐人の同意を必要とする事項の範囲を適切なものとする。
  • 本人の意思に基づかない行為能力制限を撤廃する
    本人の行為能力に制限を加えることは、本人の法律行為が将来取り消される可能性が生ずることから本人の自己決定に対する制約という側面があり相当ではないから。
    一方で、本人保護の方策について別途検討をする必要がある(例えば、後見類型において、本人が自らした法律行為に関して、本人が意思無能力であることを推定する規定を設けるなど。)

後見人等として取消権を行使したことがない(はず)ので、なんとも複雑な感じではあるが「現行制度を維持」というのは難しいように思う。2番目が穏当な気がするが、もしや4番?

(4)代理権付与の見直し

後見類型における成年後見人の包括的な代理権については、第三者がした法律行為の効果が有利・不利にかかわらず本人に帰属する点から、本人の自己決定に対する制約という側面があるとも考えられることや、成
年後見人による濫用の危険性があるとも考えられるため、その見直しの要否について検討する。

なお、保佐類型及び補助類型における代理権の付与は、本人の請求又は同意が必要であるので、これらについては見直す必要がないものとされる。

方向性としては、つぎのとおり。

  • 現行制度を維持する
    後見類型は、事理弁識能力を欠く常況にある場合であり、本人が法律行為を行うことが基本的に困難であると考えられることから、本人保護のためにも現行制度を維持する
  • 現行制度を基本的に維持した上で、代理権行使に制限を設ける
    本人保護の観点から成年後見人に包括的な代理権を付与する必要があるが、支援を受けることによって本人が自ら意思決定をすることができるのであれば、それを尊重すべきであると考えられること等から、成年後見人による代理権行使に一定の制限を設ける(例:本人が自ら法律行為をできる場合には代理権を行使してはならない)
  • 成年後見人への包括的な代理権の付与を撤廃すること
    後見類型についても、法律上当然に、包括的な代理権を成年後見人に付与するのではなく、保佐・補助類型と同様に、事案に応じて、代理権を付与する(事案によって必要がある場合には、包括的な代理権の付与を許容する。)。

もしかして3番目?そうなると一元化ということか?

(5)各類型の整理・見直し

方向性としては、つぎのとおり。

  • 現在の三類型を維持する
  • 現在の三類型を維持した上で、各類型を柔軟に利用できるようにする(例えば、事理弁識能力を欠く常況にある者も「補助類型」を利用できるようにする)
  • 現在の三類型を見直し、二類型(後見類型と補助類型のみ)とする
  • 一元的制度(補助類型のみ)にする

一元的制度とする場合には、既存の他制度の調整が大変ということか。。
でも、やらざるをえんのではないか(そうすると5年後は無理?)。