遺言執行者の復任権

1.条文

(1)改正前

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)
【平成30年6月20日 施行】

(遺言執行者の地位)
第千十五条 
遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。

(遺言執行者の復任権)
第千十六条 
遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができない。ただし、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 遺言執行者が前項ただし書の規定により第三者にその任務を行わせる場合には、相続人に対して、第百五条に規定する責任を負う。

(2)改正後

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)
【令和6年5月24日 施行】

(遺言執行者の行為の効果)
第千十五条 
遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。

(遺言執行者の復任権)
第千十六条 
遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

2.考え方

(1)改正前

遺言執行者の性質を「法定代理人」ととらえれば、次のように考えられる。

  • 本人に選ばれたわけではないため、実際に事務執行を「誰が行うか」は重要ではない。
  • 広範な代理権を与えられることが常であるから、自己執行を義務とすると、代理人にとって過度な負担となる。

いっぽうで「任意代理人」としての性質があると考えると、次のように考えられる。

  • 本人からの信頼に基づいて選任されてあのであるから、自己執行が原則となる。
  • 一定の遺言については、選ばれた当人が判断することが重要な事項が記載されることもある(受遺者の選定や、受遺の割合などを、遺言執行者の裁量で定める場合など。)。

改正前民法においては、1015条が「法定代理人」としての性質を、1016条が「任意代理人に近い」性質をもつもの、との考えのもとに規定されていると整理していた。

また、原則として復委任が禁止されることになるため、条文解釈として「旧1016条は、第三者への事務の委託を全面的に禁止するものではなく、事務に一部を委任することは可能。」とか「履行補助者として第三者を利用することは可能」といった考え方が提示されていた。
(参考:堂薗 幹一郎 (著, 編集), 神吉 康二 (著, 編集)『概説 改正相続法―平成30年民法等改正、遺言書保管法制定―』きんざい (2019/3/27)P.99以下)

(2)改正後

「任意代理人」ととらえる考え方に対しては、

  • 家庭裁判所により選任されるケースをどう説明するのか。
  • 事務遂行の必要性から復任を認めるべき場合にあっても、本人は死亡しているため、本人に代わり相続人全員の同意を得る必要がある。当該同意を得ることが、困難となる場合がある。

といった批判があった。

そこで原則と例外をひっくり返している(平成30年民法改正)

なお、関連条文として下記。

参照条文

(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。

下記条文は、準用されていない

参照条文

(復受任者の選任等)
第六百四十四条の二 
受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない。
2 代理権を付与する委任において、受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは、復受任者は、委任者に対して、その権限の範囲内において、受任者と同一の権利を有し、義務を負う。

3.改正後の条文の適用

参照条文

附則(平成三〇年七月一三日法律第七二号)

(遺言執行者の権利義務等に関する経過措置)
第八条 
新民法第千七条第二項及び第千十二条の規定は、施行日前に開始した相続に関し、施行日以後に遺言執行者となる者にも、適用する。
2 新民法第千十四条第二項から第四項までの規定は、施行日前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者によるその執行については、適用しない。
3 施行日前にされた遺言に係る遺言執行者の復任権については、新民法第千十六条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

附則8条3項により、施行日(令和1年7月1日)より前にされた遺言については、旧規定が適用となる。

(ただし、登記申請の時には、あまり意識したことが無い・・・。履行行為にすぎないから??)

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