宗教法人と所有権移転登記2(宗教法人法との関係)

2023年8月23日

1.宗教法人からの所有権移転登記

(1)宗教法人法に定める制限

参照条文

宗教法人法(昭和二十六年法律第百二十六号)

(財産処分等の公告)
第二十三条 
宗教法人(宗教団体を包括する宗教法人を除く。)は、左に掲げる行為をしようとするときは、規則で定めるところ(規則に別段の定がないときは、第十九条の規定)による外、その行為の少くとも一月前に、信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告しなければならない。但し、第三号から第五号までに掲げる行為が緊急の必要に基くものであり、又は軽微のものである場合及び第五号に掲げる行為が一時の期間に係るものである場合は、この限りでない。
一 不動産又は財産目録に掲げる宝物を処分し、又は担保に供すること。
二 借入(当該会計年度内の収入で償還する一時の借入を除く。)又は保証をすること。
三 主要な境内建物の新築、改築、増築、移築、除却又は著しい模様替をすること。
四 境内地の著しい模様替をすること。
五 主要な境内建物の用途若しくは境内地の用途を変更し、又はこれらを当該宗教法人の第二条に規定する目的以外の目的のために供すること。

(行為の無効)
第二十四条 
宗教法人の境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物について、前条の規定に違反してした行為は、無効とする。但し、善意の相手方又は第三者に対しては、その無効をもつて対抗することができない。

(2)整理

宗教法人は、一定の財産処分等を行うにあたり「公告」が必要となる。
(規則の定めに従う点にも留意!)

なお「公告」については、以下の通り。

参照条文

宗教法人法(昭和二十六年法律第百二十六号)

(設立の手続)
第十二条 
(・・・)
2 宗教法人の公告は、新聞紙又は当該宗教法人の機関紙に掲載し、当該宗教法人の事務所の掲示場に掲示し、その他当該宗教法人の信者その他の利害関係人に周知させるに適当な方法でするものとする。
3 宗教法人を設立しようとする者は、第十三条の規定による認証申請の少くとも一月前に、信者その他の利害関係人に対し、規則の案の要旨を示して宗教法人を設立しようとする旨を前項に規定する方法により公告しなければならない。

とりわけ「宗教法人の境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物」については、手続きの瑕疵が無効原因となる。

2.公告等がなされたことは添付書面となるか?

(1)先例・関連条文

昭和39年8月7日民事甲2732通達

【要約】

被包括宗教団体の財産処分については、①規則において包括団体の代表役員の承諾を得ること、②信者その他の利害関係人に対する公告が必要となっているが、第三者の許可書等の添付は不要か?

⇒消極(不要)

参照条文

宗教法人法(昭和二十六年法律第百二十六号)

(代表役員及び責任役員)
第十八条 
(・・・)
5 代表役員及び責任役員は、常に法令、規則及び当該宗教法人を包括する宗教団体が当該宗教法人と協議して定めた規程がある場合にはその規程に従い、更にこれらの法令、規則又は規程に違反しない限り、宗教上の規約、規律、慣習及び伝統を十分に考慮して、当該宗教法人の業務及び事業の適切な運営をはかり、その保護管理する財産については、いやしくもこれを他の目的に使用し、又は濫用しないようにしなければならない。
(・・・)

第五十二条
(・・・)
2  設立の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。
(・・・)
四 当該宗教法人を包括する宗教団体がある場合には、その名称及び宗教法人非宗教法人の別
(・・・)
七  規則で境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物に係る第二十三条第一号に掲げる行為に関する事項を定めた場合には、その事項

(2)整理

上記通達でいうところの「規則において包括団体の代表役員の承諾を得ること」というのは、宗教法人法18条5項で定める「当該宗教法人を包括する宗教団体が当該宗教法人と協議して定めた規程」によるものと思われる。

そして「信者その他の利害関係人に対する公告」というのが宗教法人法23条の公告。

いずれについても「添付不要」との結論。
(無効原因となるのに、なぜ不要なのだろうか?)

3.礼拝の用に供する建物及びその敷地である旨の登記

(1)条文

参照条文

宗教法人法(昭和二十六年法律第百二十六号)

第六十六条
宗教法人の所有に係るその礼拝の用に供する建物及びその敷地については、当該不動産が当該宗教法人において礼拝の用に供する建物及びその敷地である旨の登記をすることができる
2  敷地に関する前項の規定による登記は、その上に存する建物について同項の規定による登記がある場合に限りすることができる。

第六十八条
登記官は、前条第一項の規定による申請があつたときは、その建物又は土地の登記記録中権利部に、建物については当該宗教法人において礼拝の用に供するものである旨を、土地については当該宗教法人において礼拝の用に供する建物の敷地である旨を記録しなければならない。

(2)整理及び記録例

「できる」規定なので、礼拝の用に供する建物及びその敷地について、かならずしも「礼拝の用に供する」旨の登記がされているとは限らない。

4.宗教法人が権利者となる際の登録免許税の特則

(1)非課税となる場合がある!

参照条文

登録免許税法(昭和四十二年法律第三十五号)

(公共法人等が受ける登記等の非課税)
第四条 
国及び別表第二に掲げる者が自己のために受ける登記等については、登録免許税を課さない。
2 別表第三の第一欄に掲げる者が自己のために受けるそれぞれ同表の第三欄に掲げる登記等(同表の第四欄に財務省令で定める書類の添附があるものに限る旨の規定がある登記等にあつては、当該書類を添附して受けるものに限る。)については、登録免許税を課さない。

別表第三 非課税の登記等の表(第四条関係)

名称根拠法非課税の登記等備考
十二 宗教法人宗教法人法(昭和二十六年法律第百二十六号)一 専ら自己又はその包括する宗教法人の宗教の用に供する宗教法人法第三条【境内建物及び境内地の定義】に規定する境内建物の所有権の取得登記又は同条に規定する境内地の権利の取得登記
二 自己の設置運営する学校(学校教育法第一条(学校の範囲)に規定する幼稚園に限る。)の校舎等の所有権の取得登記又は当該校舎等の敷地、当該学校の運動場、実習用地その他の直接に保育若しくは教育の用に供する土地の権利の取得登記
三 自己の設置運営する保育所若しくは家庭的保育事業等の用に供する建物の所有権の取得登記又は当該建物の敷地その他の直接に保育の用に供する土地の権利の取得登記
四 自己の設置運営する認定こども園の用に供する建物の所有権の取得登記又は当該建物の敷地その他の直接に保育若しくは教育の用に供する土地の権利の取得登記
第三欄の第一号から第四号までのいずれかの登記に該当するものであることを証する財務省令で定める書類の添付があるものに限る。
参照条文

登録免許税法施行規則(昭和四十二年大蔵省令第三十七号)

第四条 
法別表第三の十二の項の第四欄に規定する財務省令で定める書類は、次の各号に掲げる登記の区分に応じ当該各号に定める書類とする。
一 法別表第三の十二の項の第三欄の第一号に掲げる登記 その登記に係る不動産が同号に規定する不動産に該当する旨を証する当該不動産の所在地を管轄する都道府県知事(地方自治法第二百五十二条の十七の二第一項(条例による事務処理の特例)の規定により宗教法人に係る事務を市町村が処理する場合にあつては、当該市町村の長)の書類
二 法別表第三の十二の項の第三欄の第二号に掲げる登記 その登記に係る不動産が同号に規定する不動産に該当する旨を証する当該不動産に係る同号に規定する学校を所管する都道府県知事(地方自治法第二百五十二条の十七の二第一項の規定により当該学校に係る事務を市町村が処理する場合にあつては、当該市町村の長)の書類
三 法別表第三の十二の項の第三欄の第三号に掲げる登記 次に掲げる登記の区分に応じそれぞれ次に定める書類
イ 保育所の用に供する不動産に係る登記 第二条第二号イに定める書類
ロ 家庭的保育事業等の用に供する不動産に係る登記 第二条第二号ロに定める書類
四 法別表第三の十二の項の第三欄の第四号に掲げる登記 第二条第三号に定める書類

(2)整理

下記の権利取得に関する登記については、登録免許税が非課税となる。

  • 宗教の用に供する境内建物および境内地
  • 幼稚園の校舎等
  • 幼稚園・保育所・認定こども園の校舎等の敷地など「直接に保育若しくは教育の用に供する土地」

ただし、たとえば「境内地」取得にかかる所有権移転申請にあたっては、境内地であることを証する都道府県知事の書類が必要となる。

(3)証明書の申請(静岡県のケース)

静岡県のホームページから、上記非課税証明の申請に関して。

参考記事(外部リンク)

同ページの必要書類一覧において、証明を受けることのできる不動産の条件として、つぎの3点を満たすことが要求されている。

  1. 使用の実態が、現に当該宗教法人の宗教活動の用に専ら供されていること。(更地の状態で、これから境内地として整備するという段階では証明ができません。)
  2. 取得した不動産が、将来においてもその宗教活動の用に供されるものであること。
  3. 当該不動産の取得が、規則に定める手続を経ていること。

「更地ではだめ」というのは、登記のタイミングを考えると厳しいような気がするが実務上どのように対応しているのだろうか?
(仮登記を入れたりするのか?)

また、提出を要する書類の一部を抜粋すると、つぎのとおり。

  • 取得理由書 (不動産を取得した理由、利用方法、信者数、法人の活動状況等を記入)
  • 責任役員会議事録(写し・原本証明) (当該不動産の取得を決定した際の議事録)
  • 当該不動産の取得の決定が、規則に定める手続を経ていることを証明する書類(写し・原本証明) (包括団体の承認書、公告文等(法人の規則を確認してください))
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