目次
1.日本に住所をおいていない代表取締役の交代
(1)モデルケース
とある会社は、C国国籍(住まいはM国)の代表取締役Xが一人株主・一人取締役の非公開会社(内国会社)である。
今般、Xは取締役を辞任し、あらたにYを取締役・代表取締役としたい。
Yも、Xと同じく、C国国籍(住まいはM国)である。
(なお、C国もM国も日本国ではない。)
前提として、「平成27年3月16日民商第29号民事局商事課長通知」がある(詳細は、登記研究808号142頁。解説もついている。)。
当該通知により「代表取締役の全員の住所が日本国内にない会社」についても設立登記や代表取締役の変更にかかる登記が受付されるようになっている。
(2)法務省HP
関係する通達が、1つにまとまっている。
表まで用意されており、よきよきである。
2.代表取締役の交代に伴う必要書類
(1)一般のケース
- 辞任を証する書類
(商業登記規則61条8項) - 株主総会議事録
(商業登記規則61条6項) - 株主リスト
(商業登記規則61条3項) - 就任承諾書
(商業登記規則61条4項) - 本人確認証明書
(商業登記規則61条7項) - 印鑑届書
(商業登記規則9条5項2号ロ)
「『一般』とは何か」については、説明は省略。
(2)考え方
「日本国内に住所がないから」「日本国籍を有しないから」ということで取得できない書類について、代替書類を何にするかを検討していくことになる。
3.署名証明
(1)商業登記規則61条4項・6項・8項、9条5項2号ロ
条文参照は省略。
(2)整理
要するに印鑑証明書が添付できないときに、かわりに何を添付するかということ。
参照すべき先例が2つある。
- 平成28年6月28日付民商第100号通達(以下「平成28年6月通達」という。)
「登記の申請書に押印すべき者が外国人であり、その者の印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付することができない場合等の取扱いについて」 - 平成29年2月10日民商第16号通知(以下「平成29年2月通達」という。)
「上記の一部改正について」(やむを得ない事情があるとして,上申書及び日本の公証人等が作成した署名証明書が使用可能な具体例)
「平成28年6月通達」から一部を抜粋
第1 商業登記規則第9条関係
(・・・)
外国人が申請書に押印して登記の申請をする場合における印鑑の提出についても、規則第9条第5項第1号の手続による。
この場合において、印鑑届書の署名が本人のものであることの当該外国人の本国官憲(当該国の領事及び日本における権限がある官憲を含む。以下同じ。)の作成した証明書の添付をもって、市町村長の作成した印鑑証明書の添付に代えることができる。
(・・・)第2 規則第61条関係
(・・・)
外国人が設立時取締役等又は代表取締役等に就任した場合において、当該設立時取締役等又は代表取締役等が就任を承諾したことを証する書面に署名しているときは、当該就任を承諾したことを証する書面の署名が本人のものであることの本国官憲の作成した証明書の添付をもって、市町村長の作成した印鑑証明書の添付に代えることができる。
(・・・)
規則第61条第6項本文の規定により、同項各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付すべき場合において、当該各号に規定する書面に外国人である議長又は取締役若しくは監査役が署名しているときは、当該書面の署名が本人のものであることの本国官憲の作成した証明書の添付をもって、市町村長の作成した印鑑証明書の添付に代えることができる。
(・・・)
規則第61条第8項本文の規定により、代表取締役若しくは代表執行役又は取締役若しくは執行役が辞任を証する書面に押印した印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付すべき場合において、当該辞任を証する書面に外国人である代表取締役若しくは代表執行役又は取締役若しくは執行役が署名しているときは、当該辞任を証する書面の署名が本人のものであることの本国官憲の作成した証明書の添付をもって、市町村長の作成した印鑑証明書の添付に代えることができる。
「(各)書面の署名が本人のものであることの本国官憲の作成した証明書」という記述を見ると、いわゆる単独型の署名証明ではなくて、貼付型(合体型)の証明を求められているのかなと感じる。
ただし、実務的には、(なかなかに再取得するにも大変だろうということで?)単独型でも大目に見てもらえるケースがあるように思う。
「平成28年6月通達」では、本来は「本国官憲の証明書」を取得しなければいけないところ、「当該外国人の本国の法制上の理由等のやむを得ない事情から,当該署名が本人のものであることの本国官憲の作成した証明書を取得することができないとき」には、
(1)その旨の登記の申請書に押印すべき者の作成した上申書
(2)当該署名が本人のものであることの日本の公証人又は当該外国人が現に居住している国の官憲の作成した証明書
をもって代替可能としている。
その「やむを得ない事情」を、より詳しく説明しているのが「平成29年2月通達」である。
「平成29年2月通達」から一部を抜粋
(1)当該外国人の本国に署名が本人のものであることを証明する制度自体がなく、当該国の本国官憲(当該国の領事及び日本における権限がある官憲を含む。以下同じ )において署名が本人のものであることの証明書を取得することができない場合
(2)当該外国人の本国においては署名が本人のものであることの証明書の取得が可能であるが、当該外国人が居住している本国以外の国等に所在する当該外国人の本国官憲では署名が本人のものであることの証明書を取得することができない場合
(3)当該外国人が居住している本国以外の国等に当該外国人の本国官憲がない場合(第三国に存在する当該外国人の本国官憲が兼轄している場合を含む )
(4)署名が本人のものであることの証明書を当該外国人の本国の日本における領事若しくは日本における権限がある官憲が発行していないため当該証明書を取得することができない場合又は日本に当該外国人の本国官憲がない場合(第三国に存在する当該外国人の本国官憲が兼轄している場合を含む )
モデルケースで言えば、
(1)Xの署名証明書は、原則としてC国の官憲が発行したものであること。
ただし、
(2)そもそもC国の制度として署名証明の制度がないとか、居住しているM国内にC国官憲がいないとか、居住しているM国内のC国官憲では署名証明の発行をしていないなどの理由があれば、その理由を説明した上申書と、M国官憲の発行するものでも良いよ、ということになる。
なお、いずれについても、外国語で作成された証明書については、日本語による訳文の添付を要する。
4.本人確認証明書
(1)商業登記規則61条7項
商業登記規則(昭和三十九年法務省令第二十三号)
(添付書面)
第六十一条
(・・・)
7 設立の登記又は取締役、監査役若しくは執行役の就任(再任を除く。)による変更の登記の申請書には、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取締役、監査役又は執行役(以下この項及び第百三条において「取締役等」という。)が就任を承諾したこと(成年後見人又は保佐人が本人に代わつて承諾する場合にあつては、当該成年後見人又は保佐人が本人に代わつて就任を承諾したこと)を証する書面に記載した取締役等の氏名及び住所と同一の氏名及び住所が記載されている市町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(当該取締役等(・・・)が原本と相違がない旨を記載した謄本を含む。)を添付しなければならない。ただし、登記の申請書に第四項(第五項において読み替えて適用される場合を含む。)又は前項の規定により当該取締役等の印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付する場合は、この限りでない。
(・・・)
(2)整理
就任する代表取締役の住所・氏名が記載された外国人の「外国官憲」の発行にかかる身分証明書等が該当する。
本人確認証明書を導入した際の通達に、下記のような記載がある。
平成27年2月6日民商第13号通達
当該取締役等が外国に居住する者であるときは、外国官憲の作成に係る当該取締役等の氏名及び住所が記載された証明書(宣誓供述証明書を含む )のほか、外国官憲の発行に係る身分証明書等(住所の記載があるものに限る )の謄本で、当該取締役等が原本と相違がない旨を記載し、署名又は記名押印したものが本人確認証明書に該当する。
(・・・)
また、外国語で作成された証明書については、日本語による訳文の添付を要する。
「本国官憲」とは「証明を求める外国人の本国の領事及び日本における権限がある官憲を含む。」である。
(参考:平成28年6月28日付け法務省民商第100号民事局長通達)
「日本における権限がある官憲」が何かわからないのだが、いわゆる公証人(これも国ごとに様々な仕組みがあるようなので、一概に権限ありとは言えないようだが・・・)も含まれるとされる。
「領事」は日本国内に所在する領事である必要はないので、モデルケースで言えば、M国に所在するC国領事による証明でも良い。
「外国官憲」とは、「本国官憲」の対となる言葉で、証明を求める人の国籍がある国以外の官憲も含む概念である。
なので、モデルケースで言えば、C国国籍であるXがM国公証人から証明を受けた宣誓供述書もOKとなる。
(M国に居住していることの証明なので、それをM国以外の国で証明することは不可という認識で良いか?)
注意しなければならないのが「住所」が記載されていること。
前述のとおり印鑑証明書の代わりに「署名証明書」を添付することになるが、日本の印鑑証明書と異なり、住所が記載されていないことが多い(たとえば日本の領事館が発行する署名証明書についても、原則的な記載事項は「氏名・生年月日・日本国旅券番号」になっているはず。)。そのため、署名証明書は本人確認証明書としての要件を満たさない。
5.そのほかの書類について
(1)株主総会議事録・辞任届・就任承諾書などの文字
国内会社については、日本語による議事録等の作成が原則であり、外国語のみによって作成された議事録は不可となる。
外国語で作成して、それに翻訳文をつけても不可である。
(参照:昭和60年7月8日民四第3951号回答)
同様のことが辞任届や就任承諾書にも言える??下記の参考文献に見解の記載あり!
(参照:神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介 編著『商業・法人登記500問』(テイハン、2023年)608頁)
(2)氏名や住所の表記方法
日本語におきかえて登記をする(カタカナや漢字)。
住所は正式な国名から表記する。
外務省HP「国・地域」
いろいろな表記が考えられるので(「James」は「ジェイムズ」か「ジェームズ」かなど)、訳文をつける際には、申請する内容との一致が必要か?
