目次
1.条文の確認
(1)条文
みんな大好きな規則61条について。
なお条文番号は令和8年3月時点のもの。
(もうこれ以上、項の番号がかわりませんように。)
商業登記規則(昭和三十九年法務省令第二十三号)
(添付書面)
第六十一条
6 代表取締役又は代表執行役の就任による変更の登記の申請書には、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付しなければならない。ただし、当該印鑑と変更前の代表取締役又は代表執行役(取締役を兼ねる者に限る。)が登記所に提出している印鑑とが同一であるときは、この限りでない。
一 株主総会又は種類株主総会の決議によつて代表取締役を定めた場合 議長及び出席した取締役が株主総会又は種類株主総会の議事録に押印した印鑑
二 取締役の互選によつて代表取締役を定めた場合 取締役がその互選を証する書面に押印した印鑑
三 取締役会の決議によつて代表取締役又は代表執行役を選定した場合 出席した取締役及び監査役が取締役会の議事録に押印した印鑑
当然ながら、代表執行役・種類株主総会については、以下では無視。
(2)整理
代表取締役の就任による変更登記の申請に際して、代表取締役の選定方法ごとに、つぎの書面を添付すること。
| (1) 株主総会の決議によつて代表取締役を定めた場合 | 議長及び出席した取締役が株主総会の議事録に押印した印鑑 |
| (2) 取締役の互選によつて代表取締役を定めた場合 | 取締役がその互選を証する書面に押印した印鑑 |
| (3) 取締役会の決議によつて代表取締役を選定した場合 | 出席した取締役及び監査役が取締役会の議事録に押印した印鑑 |
取締役・監査役は、会社法上に定義があるが、「議長」についてはどうか?
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(議長の権限)
第三百十五条
株主総会の議長は、当該株主総会の秩序を維持し、議事を整理する。
2 株主総会の議長は、その命令に従わない者その他当該株主総会の秩序を乱す者を退場させることができる。
議長について、資格や選定方法について、会社法上の規定はない。
(そもそも必須でもないそうだ。会社法施行規則72条3項5号参照。)
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(議事録)
第七十二条
法第三百十八条第一項の規定による株主総会の議事録の作成については、この条の定めるところによる。
(・・・)
3 株主総会の議事録は、次に掲げる事項を内容とするものでなければならない。
(・・・)
五 株主総会の議長が存するときは、議長の氏名
(・・・)
61条6項との関係では「誰が議長になれるのか」が気になる。
学説は「議長は総会に出席しうる者(株主、取締役または監査役)」の中から選任されなければならない」という説が有力とのこと(参照:森・濱田松本法律事務所 編 藤原総一郎 著 堀天子 著 小林雄介 著『新・会社法実務問題シリーズ/1 定款・各種規則の作成実務〈第4版〉』(中央経済社、2021年)96頁)。
(3)条文の趣旨について
規則61条6項の趣旨は、つぎのように整理できる。
- 代表取締役の選定について真正を担保するため、選定に関与した者に対して「選定を証する書面への実印の押印」と「印鑑証明書の提出」を求める。
- 上記にかかわらず、その選定に「変更前の代表取締役」が関与し、かつ「変更前の代表取締役」が選定を証する書面に届出印を押印しているのならば、それをもって真正は担保されたものとして、他の者について実印押印等を不要とする。
- 届出印であることが確認できる必要があるから、登記申請時における「届出印」でなければならない(選定を証する書面の作成時における「届出印」というだけでは不十分)
条文を読むと「(誰が押しても)印鑑さえ同一であれば良い」とも読めるが、変更前の代表取締役が押印する必要がある。
2.こまごました点について(但書の理解のしかた)
但書の理解の仕方として、シンプルに「変更前の代表取締役」が、その者の「届出印」を押印していれば良いと理解できれば楽なのだが、そうはいかない。
(1)複数人の代表取締役がいるとき
代表取締役がAとBの2名いる会社において、Bが辞任し、新たにCを代表取締役に選定した。
Cの選定を証する書面において、Aが届出印を押印しているときは?
61条6項但書を適用できる。
この場合、「BからCに代表取締役が変更」したわけだが、61条6項にいう「変更前の代表取締役」とは「Cへの変更前に代表取締役であった者」という意味であり、「A」も「変更前の代表取締役」である。
(2)取締役すら退任する場合
代表取締役Aは取締役を退任し、新たにBが代表取締役に選定された。
Bの選定を証する書面において、Aが届出印を押印しているときは?
但書の理解として、条文趣旨の2つめ「選定に『変更前の代表取締役』が関与」という点につき「議事録等の変更を証する書面について、変更前の代表取締役が、記名押印しなければならない者である必要がある。」とされている。
株主総会の出席中に代表取締役Aが辞任し、当該株主総会において代表取締役Bが選定された場合、代表取締役Aは「出席した取締役」として株主総会議事録への押印が可能であるから、61条6項但書が適用されうる。
(疑問1)株主総会前に辞任した代表取締役Aが権利義務代表取締役として株主総会に出席した場合にも同様の結論になる?(私見:適用されそう)
(疑問2)株主総会前に辞任した代表取締役Aが権利義務代表取締役とならず、かつ他の代表取締役が印鑑届をしていなかった場合で、Aが出席株主として株主総会議事録に押印したら、どうなるのだろうか?さらに議長であった場合には、どうなるのだろうか?(私見:適用されそう)
一方で、株主総会の出席中に代表取締役Aが辞任し、その後に開催された取締役会において代表取締役Bが選定された場合、Aが取締役会に全く関係ないのにポコンと取締役会議事録にハンコ押しても、61条6項但書の適用はない。
(2)取締役から監査役にスライドした場合
代表取締役Aは取締役を退任し、取締役会において、新たにBが代表取締役に選定された。
Bの選定を証する書面において、Aが「監査役」として届出印を押印しているときは?
質疑応答では肯定されている(登記研究370号75頁)!
肩書は問わず、選定された会議体に「参加資格がある者として参加」していればOKなら、前記(1)の疑問1・疑問2も肯定されそう??
(3)代表取締役の予選の場合
代表取締役Aは令和8年3月31日をもって取締役を退任することとなった。
令和8年3月31日に開催された株主総会において、新たにBが代表取締役に予選(令和8年4月1日付で就任)された。
OK。
なお代表取締役を取締役互選または取締役会で予選する際には、取締役のメンツに変動が生じる場合は認められていない(参照:登記研究221号46頁)。
なぜ株主総会ではOKで、互選・取締役会ではNOなのかはわからないが、登記実務はそうなっている。
(参照:神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介 編著『商業・法人登記500問』(テイハン、2023年)264~267頁)
(4)株主総会または取締役会を書面決議により行った場合
書面決議の場合には、「出席した」という概念がないため、議事録等の作成者が押印すればOKとされている。
(ちなみに、議事録作成者となれるのは「取締役」と条文で規定されている。会社法施行規則72条4項及び101条4項。)
株主総会議事録については、議事録作成者が「変更前の代表取締役」である場合に限り、61条6項但書を適用できる可能性がある。
それ以外の場合には、議事録作成者が実印を押印し、印鑑証明書を提出する必要がある。
取締役会の場合には、商業登記規則61条6項3号が類推適用(!)され、但書適用のケースでなければ、同意の意思表示をした取締役全員について、議事録(または同意書)に実印を押印し、かつ印鑑証明書を提出しなければならない。
(類推適用について先例はない?)
(参照:ハンドブック5版p.404/神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介 編著『商業・法人登記500問』(テイハン、2023年)278頁。)
会社法施行規則(平成十八年法務省令第十二号)
(議事録)
第七十二条
(・・・)
4 次の各号に掲げる場合には、株主総会の議事録は、当該各号に定める事項を内容とするものとする。
一 法第三百十九条第一項の規定により株主総会の決議があったものとみなされた場合 次に掲げる事項
イ 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
ロ イの事項の提案をした者の氏名又は名称
ハ 株主総会の決議があったものとみなされた日
ニ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
(・・・)
(取締役会の議事録)
第百一条
(・・・)
4 次の各号に掲げる場合には、取締役会の議事録は、当該各号に定める事項を内容とするものとする。
一 法第三百七十条の規定により取締役会の決議があったものとみなされた場合 次に掲げる事項
イ 取締役会の決議があったものとみなされた事項の内容
ロ イの事項の提案をした取締役の氏名
ハ 取締役会の決議があったものとみなされた日
ニ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
(・・・)
