目次
1.中間試案の公表
法制審議会民法(成年後見等関係)部会より、改正に関する中間試案が公表された。
同部会は、令和6年4月9日開催の第1回から数えて既に21回の会議が開催されている。
(議事録だけを見ても、非常に面白い。)
なお以下の整理は、中間試案のみを参考として、その内容の整理を試みるもの。
他の記事にも言えることだが、(他の記事にもまして)理解や整理に誤りがある可能性がある点、ご了承ください。
2.大項目「法定後見の開始の要件及び効果等」について
(1)大項目を抜粋
- 法定後見の開始の要件及び効果等
- 法定後見の終了
- 保護者に関する検討事項
- 法定後見制度に関するその他の検討事項
- 任意後見制度における監督に関する検討事項
- 任意後見制度と法定後見制度との関係
- 任意後見制度に関するその他の検討
- その他
一見サラッとした感じに見えるが、内容は非常に濃い。
(2)「法定後見制度に関するその他の検討事項」における小項目を抜粋
- 法定後見の本人の相手方の催告権
- 本人の詐術
- 意思表示の受領能力等
- 成年被後見人と時効の完成猶予
- 受任者が法定後見制度を利用したことと委任の終了事由等
- 成年被後見人の遺言
- 法定後見の本人の民事訴訟における訴訟能力等
- 法定後見の本人の人事訴訟における訴訟能力等
- 手続法上の特別代理人
3.法定後見の本人の相手方の催告権
現行法の規律を維持する。
【正しく理解しているか(他の比べて非常に)自信のない箇所・・・】
本人が「行為能力者(行為能力の制限を受けない者)」となった後、その者に対して期間を定めて催告することができる(確答を発しない場合は、追認したものとみなす。)。
一方で、本人が行為能力者とならない間にあっては、その保護者に対して、その権限内の行為について催告することができる(確答を発しない場合は、追認したものとみなす。)。
本人の相手方は、本人に対しては、期間内に保護者の追認を得るべき旨の催告をすることができる(確答を発しない場合は、取り消したものとみなす。)。
この場合の「本人」からは、事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設ける場合における「本人」は除かれる。
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(制限行為能力者の相手方の催告権)
第二十条
制限行為能力者【未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。】の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。
2 制限行為能力者の相手方が、制限行為能力者が行為能力者とならない間に、その法定代理人、保佐人又は補助人に対し、その権限内の行為について前項に規定する催告をした場合において、これらの者が同項の期間内に確答を発しないときも、同項後段と同様とする。
3 特別の方式を要する行為については、前二項の期間内にその方式を具備した旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。
4 制限行為能力者の相手方は、被保佐人又は第十七条第一項の審判を受けた被補助人に対しては、第一項の期間内にその保佐人又は補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができる。この場合において、その被保佐人又は被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは、その行為を取り消したものとみなす。
4.本人の詐術
現行法の規律を維持する。
「詐術」の内容の明確化につき、引き続き、検討する。
5.意思表示の受領能力等
(1)意思表示の受領能力
「法定後見の開始の要件及び効果」における考え方ごとに、つぎのような考え方がある。
【現行の類型を維持する考え方の場合】
現行法の規律を維持する。
【特定の法律行為ごとに保護の必要性を判断していく考え方の場合】
法定後見の本人に関する意思表示の受領能力の規律を削除する。
【上記(特定の法律行為ごとに考える)を原則としつつ一定の類型を残す考え方の場合】
(事理弁識能力が不十分である者について)法定後見の本人に関する意思表示の受領能力の規律を設けない。
(事理弁識能力を欠く常況にある者について)現行法の規律と同様の規律を設ける。
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(意思表示の受領能力)
第九十八条の二
意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。
一 相手方の法定代理人
二 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方
(2)意思表示を受領する権限を有する者を選任する仕組み
(案1)
現行法の規律を維持する。
すなわち、上記権限を有する者を選任する仕組みを設けない。
(案2)
事理弁識能力を欠く常況にある者については、「利害関係人」の請求により、上記権限を有する者を選任することができる。
(ただし、利用場面をヨリ限定すべきとの意見があり、たとえば「法定後見の利用が終了した後に限る」とか「法定後見を利用している間に代理権を付与された保護者がした法律行為にかかる意思表示を受領する必要がある場合に限る」といった意見がある。
6.成年被後見人と時効の完成猶予
「法定後見の開始の要件及び効果」における考え方ごとに、つぎのような考え方がある。
【現行の類型を維持する考え方の場合】
現行法の規律を維持する。
【特定の法律行為ごとに保護の必要性を判断していく考え方の場合】
成年被後見人と時効の完成猶予の規律を削除する。
【上記(特定の法律行為ごとに考える)を原則としつつ一定の類型を残す考え方の場合】
(事理弁識能力が不十分である者について)成年被後見人と時効の完成猶予の規律を設けない。
(事理弁識能力を欠く常況にある者について)現行法の規律と同様の規律を設ける。
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(未成年者又は成年被後見人と時効の完成猶予)
第百五十八条
時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。
2 未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。
7.受任者が法定後見制度を利用したことと委任の終了事由等
(1)受任者が法定後見制度を利用したことと委任の終了事由
(案1)
「法定後見の開始の要件及び効果」における考え方ごとに、つぎのような考え方がある。
【現行の類型を維持する考え方の場合】
現行法の規律を維持する。
【特定の法律行為ごとに保護の必要性を判断していく考え方の場合】
委任の終了事由の規律を削除する。
【上記(特定の法律行為ごとに考える)を原則としつつ一定の類型を残す考え方の場合】
(事理弁識能力が不十分である者について)委任の終了事由の規律を設けない。
(事理弁識能力を欠く常況にある者について)現行法の規律と同様の規律を設ける。
(案2)
「法定後見の開始の要件及び効果」において、いずれの考え方をとるにせよ、
委任の終了事由の規律を削除する。
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(委任の終了事由)
第六百五十三条
委任は、次に掲げる事由によって終了する。
(・・・)
三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。
(2)代理人が法定後見制度を利用したことと代理権の消滅事由
(案1)
「法定後見の開始の要件及び効果」における考え方ごとに、つぎのような考え方がある。
【現行の類型を維持する考え方の場合】
現行法の規律を維持する。
【特定の法律行為ごとに保護の必要性を判断していく考え方の場合】
代理権の消滅事由の規律を削除する。
【上記(特定の法律行為ごとに考える)を原則としつつ一定の類型を残す考え方の場合】
(事理弁識能力が不十分である者について)現行法の規律を設けない。
(事理弁識能力を欠く常況にある者について)現行法の規律と同様の規律を設ける。
(案2)
代理権の消滅事由の規律を削除する。
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(代理権の消滅事由)
第百十一条
代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
(・・・)
二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
2 委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。
8.成年被後見人の遺言
「法定後見の開始の要件及び効果」における考え方ごとに、つぎのような考え方がある。
【現行の類型を維持する考え方の場合】
現行法の規律を維持する。
【特定の法律行為ごとに保護の必要性を判断していく考え方の場合】
成年被後見人の遺言の規律を削除する。
【上記(特定の法律行為ごとに考える)を原則としつつ一定の類型を残す考え方の場合】
(事理弁識能力が不十分である者について)成年被後見人の遺言の規律を設けない。
(事理弁識能力を欠く常況にある者について)現行法の規律と同様の規律を設ける。
民法(明治二十九年法律第八十九号)
第九百六十二条
第五条【未成年者の法律行為】、第九条【成年被後見人の法律行為)】、第十三条【保佐人の同意を要する行為等】及び第十七条【補助人の同意を要する旨の審判等】の規定は、遺言については、適用しない。
(被後見人の遺言の制限)
第九百六十六条
被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。
2 前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない。
(成年被後見人の遺言)
第九百七十三条
成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。
9.法定後見の本人の民事訴訟における訴訟能力等
「法定後見の開始の要件及び効果」における考え方ごとに、つぎのような考え方がある。
【現行の類型を維持する考え方の場合】
現行法の規律を維持する。
- 成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。
- 被保佐人及び訴訟行為をすることについて補助人の同意を要する被補助人が相手方の提起した訴え又は上訴について訴訟行為をするには、保佐人又は補助人の同意を要しない。
民事訴訟法(平成八年法律第百九号)
(原則)
第二十八条
当事者能力、訴訟能力及び訴訟無能力者の法定代理は、この法律に特別の定めがある場合を除き、民法(明治二十九年法律第八十九号)その他の法令に従う。訴訟行為をするのに必要な授権についても、同様とする。
(未成年者及び成年被後見人の訴訟能力)
第三十一条
未成年者及び成年被後見人は、法定代理人によらなければ、訴訟行為をすることができない。ただし、未成年者が独立して法律行為をすることができる場合は、この限りでない。
(被保佐人、被補助人及び法定代理人の訴訟行為の特則)
第三十二条
被保佐人、被補助人(訴訟行為をすることにつきその補助人の同意を得ることを要するものに限る。次項及び第四十条第四項において同じ。)又は後見人その他の法定代理人が相手方の提起した訴え又は上訴について訴訟行為をするには、保佐人若しくは保佐監督人、補助人若しくは補助監督人又は後見監督人の同意その他の授権を要しない。
2 被保佐人、被補助人又は後見人その他の法定代理人が次に掲げる訴訟行為をするには、特別の授権がなければならない。
一 訴えの取下げ、和解、請求の放棄若しくは認諾又は第四十八条(第五十条第三項及び第五十一条において準用する場合を含む。)の規定による脱退
二 控訴、上告又は第三百十八条第一項の申立ての取下げ
三 第三百六十条(第三百六十七条第二項及び第三百七十八条第二項において準用する場合を含む。)の規定による異議の取下げ又はその取下げについての同意
【特定の法律行為ごとに保護の必要性を判断していく考え方の場合】
成年被後見人の訴訟能力の規律を削除する。
本人(訴訟行為をすることにつきその保護者の同意を得ることを要するものに限る。)が相手方の提起した訴え又は上訴について訴訟行為をするには、保護者の同意を要しないとする旨等の規律を設ける。
【上記(特定の法律行為ごとに考える)を原則としつつ一定の類型を残す考え方の場合】
(事理弁識能力が不十分である者について)
本人(訴訟行為をすることにつきその保護者の同意を得ることを要するものに限る。)が相手方の提起した訴え又は上訴について訴訟行為をするには、保護者の同意を要しないとする旨等の規律を設ける。
(事理弁識能力を欠く常況にある者について)
保護者によらなければ、訴訟行為をすることができない旨の規律を設ける。
10.法定後見の本人の人事訴訟における訴訟能力等
「法定後見の開始の要件及び効果」における考え方ごとに、つぎのような考え方がある。
【現行の類型を維持する考え方の場合】
現行法の規律を維持する。
【特定の法律行為ごとに保護の必要性を判断していく考え方の場合】
法定後見の本人について民法の行為能力の制限に関する規定及び民事訴訟法の訴訟無能力に関する規定を適用しない旨の規律を維持する。
現行の、成年被後見人に関する人事訴訟における訴訟能力等の規律の修正を検討する。
【上記(特定の法律行為ごとに考える)を原則としつつ一定の類型を残す考え方の場合】
(事理弁識能力が不十分である者について)法定後見の本人について民法の行為能力の制限に関する規定及び民事訴訟法の訴訟無能力に関する規定を適用しない旨の規律を維持する。
(事理弁識能力を欠く常況にある者について)現行法の規律と同様の規律を設ける。
人事訴訟法(平成十五年法律第百九号)
(人事訴訟における訴訟能力等)
第十三条
人事訴訟の訴訟手続における訴訟行為については、民法第五条第一項及び第二項、第九条、第十三条並びに第十七条並びに民事訴訟法第三十一条並びに第三十二条第一項(同法第四十条第四項において準用する場合を含む。)及び第二項の規定は、適用しない。
2 訴訟行為につき行為能力の制限を受けた者が前項の訴訟行為をしようとする場合において、必要があると認めるときは、裁判長は、申立てにより、弁護士を訴訟代理人に選任することができる。
3 訴訟行為につき行為能力の制限を受けた者が前項の申立てをしない場合においても、裁判長は、弁護士を訴訟代理人に選任すべき旨を命じ、又は職権で弁護士を訴訟代理人に選任することができる。
4 前二項の規定により裁判長が訴訟代理人に選任した弁護士に対し当該訴訟行為につき行為能力の制限を受けた者が支払うべき報酬の額は、裁判所が相当と認める額とする。
第十四条
人事に関する訴えの原告又は被告となるべき者が成年被後見人であるときは、その成年後見人は、成年被後見人のために訴え、又は訴えられることができる。ただし、その成年後見人が当該訴えに係る訴訟の相手方となるときは、この限りでない。
2 前項ただし書の場合には、成年後見監督人が、成年被後見人のために訴え、又は訴えられることができる。
11.手続法上の特別代理人
「法定後見の開始の要件及び効果」における考え方ごとに、つぎのような考え方がある。
【現行の類型を維持する考え方の場合】
現行法の規律を維持する。
【特定の法律行為ごとに保護の必要性を判断していく考え方の場合】
法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、事理を弁識する能力を欠く常況にある者に対し訴訟行為(手続)をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、(受訴裁判所の)裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる旨の規律を設ける。
【上記(特定の法律行為ごとに考える)を原則としつつ一定の類型を残す考え方の場合】
(事理弁識能力が不十分である者について)現行法の規律を維持する。
(事理弁識能力を欠く常況にある者について)現行法の規律と同様の規律を設ける。
民事訴訟法(平成八年法律第百九号)
(特別代理人)
第三十五条
法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる。
2 裁判所は、いつでも特別代理人を改任することができる。
3 特別代理人が訴訟行為をするには、後見人と同一の授権がなければならない。

