特定目的会社における「資本金」について(ごく簡単に)

1.特定目的会社とは

(1)法律

参照条文

資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)

(定義)
第二条
(・・・)
3 この法律において「特定目的会社」とは、次編第二章第二節の規定に基づき設立された社団をいう。
(・・・)

(2)整理

定義祭りの始まりである。
そもそも「資産の流動化に関する法律」は、つぎのような目的を持っている。

参照条文

資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)

(目的)
第一条 
この法律は、特定目的会社又は特定目的信託を用いて資産の流動化を行う制度を確立し、これらを用いた資産の流動化が適正に行われることを確保するとともに、資産の流動化の一環として発行される各種の証券の購入者等の保護を図ることにより、一般投資者による投資を容易にし、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする。

以下、主として「特定目的会社」の資本金について確認を進める。
まずは、同法2編【特定目的会社制度】2章【特定目的会社】2節【設立】から確認をしていく。

参照条文

資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)

(定款)
第十六条 特定目的会社を設立するには、発起人が定款を作成し、その全員がこれに署名し、又は記名押印しなければならない。
2 特定目的会社の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
(・・・)
四 特定資本金の額(この法律に別段の定めがある場合を除き、特定出資の発行に際して特定社員となる者が特定目的会社に対して払込み又は給付をした財産の額をいう。以下同じ。)
(・・・)
6 会社法第三十条(定款の認証)及び第三十一条(第三項を除く。)(定款の備置き及び閲覧等)の規定は、特定目的会社の定款について準用する。(・・・)

参照条文

会社法(平成十七年法律第八十六号)

(定款の認証)
第三十条 
第二十六条第一項の定款は、公証人の認証を受けなければ、その効力を生じない。
2 前項の公証人の認証を受けた定款は、株式会社の成立前は、第三十三条第七項若しくは第九項又は第三十七条第一項若しくは第二項の規定による場合を除き、これを変更することができない。

ここまでは株式会社と似ている(気がする)。

あらためて「特定資本金の額」について確認すると、
特定資本金の額とは「特定出資の発行に際して特定社員となる者が特定目的会社に対して払込み又は給付をした財産の額」である。

そして「特定出資」については、2条に定義規定が置かれている。

参照条文

資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)

(定義)
第二条
この法律において「特定資産」とは、資産の流動化に係る業務として、特定目的会社が取得した資産(・・・)をいう。
2 この法律において「資産の流動化」とは、一連の行為として、特定目的会社が資産対応証券の発行若しくは特定借入れにより得られる金銭をもって資産を取得し、(・・・)これらの資産の管理及び処分により得られる金銭をもって、次の各号に掲げる資産対応証券、特定借入れ及び受益証券に係る債務又は出資について当該各号に定める行為を行うことをいう。
一 特定社債、特定約束手形若しくは特定借入れ又は受益証券 その債務の履行
二 優先出資 利益の配当及び消却のための取得又は残余財産の分配
(・・・)
11 この法律において「資産対応証券」とは、優先出資、特定社債及び特定約束手形をいう。
(・・・)

特定目的会社は、資産対応証券等の発行により「資産」を取得する。
この資産のことを「特定資産」という。

そして特定資産の管理及び処分により得られる金銭をもって、資産対応証券等に対して利益配当等を行う。

ここで「優先出資」という用語が登場しているが、出資に関して定義規定を確認する。

参照条文

(定義)
第二条
(・・・)
5 この法律において「優先出資」とは、均等の割合的単位に細分化された特定目的会社の社員の地位であって、当該社員が、特定目的会社の利益の配当又は残余財産の分配を特定出資を有する者(以下「特定社員」という。)に先立って受ける権利を有しているものをいう。
6 この法律において「特定出資」とは、均等の割合的単位に細分化された特定目的会社の社員の地位であって、特定目的会社の設立に際して発行されたもの(第三十六条【募集特定出資の発行等】の規定により発行されたものを含む。)をいう。
(・・・)

やっと出資に関する条項が登場してきたので、項を改める。

2.特定目的会社における出資(あるいは資本金)

(1)出資(あるいは資本金)の種類

さきほどほ2条5項及び6項を表にすると次のとおり

優先出資均等の割合的単位に細分化された特定目的会社の社員の地位。
当該社員が、特定目的会社の利益の配当又は残余財産の分配を特定社員に先立って受ける権利を有しているものをいう。
特定出資均等の割合的単位に細分化された特定目的会社の社員の地位。
特定目的会社の設立に際して発行されたもの(募集特定出資の発行によるものを含む。)

(2)前提として「社員」の種類について確認

いずれも「均等の割合的単位に細分化された特定目的会社の社員の地位」である。

社員については、法26条に規定がある。

参照条文

(社員)
第二十六条 
特定目的会社(優先出資を発行しない特定目的会社に限る。)の社員は、特定社員とし、優先出資を発行する特定目的会社の社員は、特定社員及び優先出資社員(優先出資を有する者をいう。以下同じ。)とする。

すこし「社員」について掘り下げると次のとおり。

特定社員その有する特定出資につき社員総会における議決権を有する。(27条3項)
特定社員以外の者が譲渡により特定出資を取得するには、特定目的会社の承認がなければならない。(29条2項)
優先出資社員法律に別段の定めがある場合を除き、その有する優先出資につき社員総会における議決権を有しない。(27条4項)
優先出資社員は、その有する優先出資を譲渡することができる。特定目的会社は、優先出資の譲渡を制限してはならない。(44条1項・2項)

そして、優先出資社員の有無により、特定目的会社の呼称が変わってくる。

第一種特定目的会社優先出資社員が存在しない特定目的会社
(51条1項1号)
第二種特定目的会社優先出資社員が存在する特定目的会社
(51条1項2号)

(3)資本金の額について整理

そうしてみると特定目的会社において登場する「資本金」はつぎのとおり。

特定資本金の額法律に別段の定めがある場合を除き、特定出資の発行に際して特定社員となる者が特定目的会社に対して払込み又は給付をした財産の額
(16条2項4号)
優先資本金の額法律に別段の定めがある場合を除き、優先出資の発行に際して優先出資社員となる者が特定目的会社に対し、払込みをした財産の額
(42条1項1号)

3.特定目的会社における資本金と登記

(1)特定目的会社における登記事項

参照条文

資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)

(設立の登記等)
第二十二条 
(・・・)
2 前項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。
一 目的
二 商号
三 本店及び支店の所在場所
四 特定目的会社の存続期間又は解散の事由
五 特定資本金の額
六 発行した特定出資の総口数
(・・・)
八 取締役及び監査役の氏名及び住所
九 取締役のうち特定目的会社を代表しない者があるときは、代表取締役(特定目的会社を代表する取締役をいう。以下同じ。)の氏名
(・・・)
3 会社法第九百十五条第一項及び第二項(変更の登記)、第九百十六条(第一号に係る部分に限る。)(他の登記所の管轄区域内への本店の移転の登記)、第九百十七条(第一号に係る部分に限る。)(職務執行停止の仮処分等の登記)並びに第九百十八条(支配人の登記)の規定は、特定目的会社の本店の所在地における登記について準用する。(・・・)

参照条文

(優先出資の発行の登記、優先出資社員となる時期等)
第四十二条 
特定目的会社は、その発行に係る優先出資の総口数の全額の払込みがあった日から二週間以内に、その本店の所在地において、優先出資の発行に係る事項として次に掲げる事項を登記しなければならない。
一 優先資本金の額(この法律に別段の定めがある場合を除き、優先出資の発行に際して優先出資社員となる者が特定目的会社に対し、払込みをした財産の額をいう。以下同じ。)
二 内容の異なる二以上の種類の優先出資を発行するときは、優先出資の総口数並びに当該優先出資の種類ごとの口数並びに利益の配当又は残余財産の分配についての優先的内容及び消却に関する規定
三 優先出資社員名簿管理人(特定目的会社に代わって優先出資社員名簿の作成及び備置きその他の優先出資社員名簿に関する事務を行う者をいう。以下同じ。)を置いたときは、その氏名又は名称及び住所並びに営業所
2 募集優先出資の引受人は、前項の登記の日に、前条第四項の規定による払込みをした募集優先出資の優先出資社員となる
(・・・)
9 会社法第九百十五条第一項(変更の登記)の規定は、特定目的会社について準用する。この場合において、同項中「第九百十一条第三項各号又は前三条各号」とあるのは、「資産流動化法第四十二条第一項各号」と読み替えるものとする。

参照条文

会社法(平成十七年法律第八十六号)

(変更の登記)
第九百十五条 
会社において第九百十一条第三項各号又は前三条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、二週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない。
(・・・)

(2)整理

それぞれ登記される事項は次のとおり。

特定資本金(1)特定資本金の額
(2)発行した特定出資の総口数
優先資本金(1)優先資本金の額
(2)内容の異なる二以上の種類の優先出資を発行するとき
(2-1)優先出資の総口数
(2-2)種類ごとの、利益の配当又は残余財産の分配についての優先的内容。
(2-3)種類ごとの、消却に関する規定。

優先資本金については、42条2項に記載のとおり「登記の日に優先出資社員となる」というのが面白い。

特定目的会社登記規則についても確認したいが、余力無く断念。

4.おまけ(資産流動化計画について)

(1)条文

参照条文

資産の流動化に関する法律(平成十年法律第百五号)
(定義)
第二条
(・・・)
4 この法律において「資産流動化計画」とは、特定目的会社による資産の流動化に関する基本的な事項を定めた計画をいう。
(・・・)

参照条文

(資産流動化計画)
第五条 
資産流動化計画には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
一 資産流動化計画の計画期間及び計画期間に関する事項として内閣府令で定める事項
二 資産対応証券及び特定借入れに関する次に掲げる事項
イ 優先出資においては、総口数の最高限度、優先出資の内容(利益の配当又は残余財産の分配についての優先的内容を含む。以下同じ。)その他の発行及び消却に関する事項として内閣府令で定める事項
(・・・)
四 特定資産の管理及び処分の方法、管理及び処分に係る業務を行わせるために設定する信託の受託者その他の特定資産の管理及び処分に関する事項として内閣府令で定める事項
五 資金の借入れ(特定借入れを除く。)に関する事項として内閣府令で定める事項
六 その他内閣府令で定める事項
2 前項第一号の資産流動化計画の計画期間は、政令で定める特定資産の区分に応じ、その管理及び処分に関する合理的な計画の策定可能な期間として政令で定める期間を超えてはならない。
3 資産流動化計画は、電磁的記録をもって作成することができる。
(・・・)

参照条文

(資産流動化計画に係る特定社員の承認)
第六条 
特定目的会社が業務開始届出を行うときは、資産流動化計画について、あらかじめすべての特定社員の承認を受けなければならない。

参照条文

(届出)
第四条 
特定目的会社は、資産の流動化に係る業務を行うときは、あらかじめ内閣総理大臣に届け出なければならない。
2 (・・・)
3 前項の届出書には、次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 定款
二 資産流動化計画
三 特定資産(不動産その他の特定資産に付随して用いられる特定資産であって、価値及び使用の方法に照らし投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものとして内閣府令で定めるもの(以下「従たる特定資産」という。)を除く。次号において同じ。)の譲受けに係る予約その他の内閣府令で定める契約の契約書の副本又は謄本
(・・・)
五 第六条の承認があったことを証する書面
(・・・)

(2)整理

「資産流動化計画」について触れる場所がなかったので、本項で整理する。

そもそも特定目的会社が「資産の流動化に係る業務」をおこなうにあたっては、あらかじめ「内閣総理大臣への届け出」が必要となっている。
具体的には、本店所在地を管轄する財務局への届け出となる。
(静岡県の場合は東海財務局)

届出にあたっては「資産流動化計画」を提出しなければならず、これは特定社員の承認を経て決定されるものである。
優先出資の内容なども、資産流動化計画のなかに盛り込まなければならない。

そして特定目的会社は「資産流動化計画」に沿って業務を実施しなければならない。
計画に変更が生じた場合には、原則的に、変更届出が必要となってくる。

参照条文

(届出事項の変更)
第九条 
特定目的会社は、第四条第二項各号(第五号を除き、第十一条第五項において準用する場合を含む。)に掲げる事項又は資産流動化計画に変更があったときは、内閣府令で定める期間内に、内閣総理大臣に届け出なければならない。ただし、資産流動化計画に記載又は記録された事項の変更であって、特定資産の取得の時期の確定に伴う変更その他の軽微な変更として内閣府令で定めるものについては、この限りでない。
2 前項の規定による届出(以下この編において「変更届出」という。)を行う特定目的会社は、当該変更の内容及びその理由を記載した届出書を内閣総理大臣に提出しなければならない。
3 変更届出が資産流動化計画の変更に係る場合には、次に掲げる書類を添付しなければならない。
一 変更後の資産流動化計画
二 資産流動化計画の変更がこの法律の規定に基づき行われたことを証する書類として内閣府令で定める書類
(・・・)

そして、届出・変更届出を怠ると次のような罰則がある。

参照条文

第二百九十四条 
次の各号に掲げる違反があった場合においては、その違反行為をした者は、三年以下の拘禁刑若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第四条第一項又は第十一条第一項の規定に違反して届出をしないで資産の流動化に係る業務を行ったとき。
(・・・)
三 第九条第一項の規定に違反して届出をしなかったとき。
(・・・)
十二 第四条第二項(第十一条第五項において準用する場合を含む。)の届出書若しくは第四条第三項各号(第十一条第五項において準用する場合を含む。)に掲げる資料(・・・)、第七条第二項(第十一条第五項において準用する場合を含む。)に規定する資料、第九条第二項(第二百二十七条第二項において準用する場合を含む。)の届出書若しくは第九条第三項各号(第二百二十七条第二項において準用する場合を含む。)に掲げる書類、第十一条第三項の書類又は第二百二十五条第二項各号に掲げる書類に虚偽の記載又は記録をして提出したとき。

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