目次
1.基本的な考え方(私見)
(1)名に使用できる文字の制限
子供の名としてつけられる文字は、法律上、一定の制限があります。
(具体的な条文は下記2(1)を参照)
「名」は、その人のパーソナリティの中核となるものです。
一方で「名」は、他人がその人を指し示す(特定する)ためにも重要な役割を果たすものです。
特殊な文字、造字を名に使用されることにより、当事者はもちろんのこと社会的な混乱(不便・非効率)が生じることを避けるために、法律によって一定の制限がかけられていると考えられます。
戸籍法(以下「法」という。)50条1項が子の名には常用平易な文字を用いなければならないとしているのは、従来、子の名に用いられる漢字には極めて複雑かつ難解なものが多く、そのため命名された本人や関係者に、社会生活上、多大の不便や支障を生じさせたことから、子の名に用いられるべき文字を常用平易な文字に制限し、これを簡明ならしめることを目的とするもの
平成15年12月25日最高裁判所第三小法廷決定(事件番号平成15(許)37)より
(2)命名権
「名」は、その人のパーソナリティの中核となるものです。
とはいえ、すこし特殊なのは、本人が「名」をつけるのではなく、本人の親権者が名をつける(親が命名権をもつ。)という点です。
(本人は赤ちゃんなので、自分で名をつけられないのは、当たり前なのですが。)
(なお「命名権」について法律上の明示はありません。一般的には親権の一種として考えられているようです。)
ある意味で「勝手」に名付けられる子のためにも、特殊な名づけがされないように、名に使用できる文字に公的制限をかけたともいえます。
(3)名の変更
詳細は、下記を参照。
要するに、名の変更にあたっては「正当な事由」が必要であるということ。
2.戸籍法の規定
(1)条文の確認
戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)
第五十条
子の名には、常用平易な文字を用いなければならない。
② 常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定める。
戸籍法施行規則(昭和二十二年司法省令第九十四号)
第六十条
戸籍法第五十条第二項の常用平易な文字は、次に掲げるものとする。
一 常用漢字表(平成二十二年内閣告示第二号)に掲げる漢字(括弧書きが添えられているものについては、括弧の外のものに限る。)
二 別表第二に掲げる漢字
三 片仮名又は平仮名(変体仮名を除く。)
(2)整理
この名には「常用平易な文字」を使用しなければならない。
常用平易な文字は、戸籍法施行規則に定めがおかれている。
- 常用漢字表
- 別表第二
- 片仮名または平仮名(変体仮名を除く)
『常用漢字表』とは、昭和五十六年内閣告示第一号にて定められた漢字の一覧(平成22年内閣告示第2号により改定され、現在は2136字。)。
「一般の社会生活において現代の国語を書き表すための漢字使用の目安」として定められたもの。
『別表第二』とは、戸籍法施行規則で定められている子の名に使える漢字の一覧で、863字が掲載されている。
『片仮名または平仮名』については、そのとおりだが「変体仮名を除く」とされている。
ただし、平成16年9月27日民一第2664号通達に留意(後記3(1)参照)
3.関連する通達
(1)通達の役割
「通達」は、法令の解釈や運用方針について、お役所内部のルールとして示されるものです。
「子の名」に関しても、いくつかの通達がありますが、下記では、その一部を確認しています。
国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)
第十四条
(・・・)
2 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達をするため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる。
(2)平成16年9月27日民一第2664号通達
要約すると、つぎのとおり。
【要約】
1.「ヰ」「ヱ」「ヲ」「ゐ」「ゑ」及び「を」は、戸籍法施行規則60条3号に規定する「片仮名又は平仮名」に含まれる。
2.長音記号「ー」は直前の音を延引する場合に限り、また、同音の繰り返しに用いる「ゝ」及び「ゞ」並びに同音の繰り返しに用いる「々」は直前の文字の繰り返しに用いる場合に限り使用可能。
3.規則60条1号及び2号に掲げる字体外の字体によって子の名を記載した出生の届書は、受理しない。ただし、デザインや書き方の習慣の差によるものであるときは、受理する。
4.上記但書により届出を受理したとき、戸籍への記録は規則60条1号及び2号に掲げる字体によりおこなう。
上記1では「を」「ヲ」に言及されているのは何故なのだろう?
(「ヴ」は利用できるのか?)
(3)昭和56年9月14日民二第5537号通達
要約・抜粋するとつぎのとおり。
【要約】
一 名に制限外の文字を用いて差し支えない届出
次の届出は、改正後の戸籍法施行規則(以下「規則」という。)60条等に定める文字以外の文字を用いて名を記載した場合でも、受理して差し支えない。
1 (・・・)
2 出生後長年月経過し、相当の年齢に達した者について、卒業証書、免許証、保険証書等により社会に広く通用していることを証明できる名を記載してする出生の届出(従前の名の文字が誤字又は俗字であるときは、それを正字に訂正したものに限る。)
3 就籍の届出
4 名の変更の届出
3・4は家庭裁判所において「常用平易」を認定したと解されることから。
2については「永年使用」を尊重したものということか。
(「誤字」「俗字」という言葉がでてきている!)
(4)平成16年9月27日民一第2665号通達、平成2年10月20日民二第5200号通達
このあたりにくると、完全に理解が追い付かなくなる。
悪名高い(個人の感想)平成2年通達に関連するものである。
通達の改正がなされているので現在は異なるが、当初は平成2年通達において「誤字又は俗字の解消」が目的とされていた。
平成16年通達は平成2年通達を改めるもので、抜粋・要約すると、つぎのとおり。
【要約】
第1
1 俗字等の取扱い
戸籍に記載されている氏又は名の文字が次に掲げる文字であるときは、そのまま記載するものとする。
(1)漢和辞典に俗字として登載されている文字(別表に掲げる文字を除く。)
(2)【省略】
(・・・)
2 誤字の取扱い
(1)誤字の解消
戸籍に記載されている氏又は名の文字が誤字で記載されているときは、これに対応する字種及び字体による正字又は別表に掲げる文字(以下「正字等」という。)で記載する。
正字・誤字・俗字については、本項では言及しない。