目次
0.事例
Aさんが亡くなった。
Aさんの相続人は、妻Bと、子C・Dである。
Dは未成年(15歳)である。
Aさんの相続財産は、自宅不動産のみで、これはBさん単独名義としたい。
Aさんの単独名義とすることについては、CもDも賛成の意思表示をしている。
1.遺産分割協議の必要性
不動産をAさんからBさんに変更するためには、まず、相続人全員で遺産分割協議を行います。
その結果を書面化して、各人が実印を押し、印鑑証明書等その他の必要書類と一緒に、法務局に申請します。
2.未成年者は協議の当事者になれない
しかしながら、相続人の中に未成年者が含まれる場合、未成者自身は、協議の当事者にはなれません。
この場合は、親権者(一般的には親)が、未成年者を代理して協議に参加する必要があります。
3.利益相反行為
ところが、本事例では、親権者も遺産分割協議の当事者であり、親権者Bと子Dは利益相反の状態にあるため、Bさんは親権者としてDを代理することができません。
形式的に見て、BさんとDさんは、互いにAさんの相続財産を取り合う関係になっており、そうした状態を利益相反といっています。
その場合には、親権者に代わってDさんを代理する「特別代理人」を裁判所に選任してもらう必要があります。
4.特別代理人の選任申立て
特別代理人は裁判所に選んでもらう必要がありますので、所定の書類をそろえて、裁判所に対して「選任してください。」と申立てをします。
(1)特別代理人の候補者を提示することができる
その際、「特別代理人の候補者」を指名するのが通例です。
候補者は、弁護士や司法書士などの資格を有する必要は必ずしもなく、遺産分割に関係ない、叔父さんや叔母さんでも認められる傾向にあります。
(2)遺産分割協議書の案を添付する
加えて、申立に際しては、遺産分割協議書の案を添付する必要があります。
添付した協議書案は、裁判所が特別代理人を選任するにあたり「別紙遺産分割協議書案のとおり分割するにつき、Dの特別代理人~を選任する。」という形で引用されるケースが多いと思われます。
5.遺産分割協議書の内容
上記のように、添付した遺産分割協議書が、特別代理人の選任内容にも影響するため、選任審判にあたり内容チェックも行われます。
ただし、チェックされるのは「協議書の内容が未成年者に対して不利益な内容となっていないかどうか」という1点です(相続人全員にとって公平かどうかは、問題とはされません。)。
そして、基本的には「未成年者の法定相続分が確保されているかどうか」が問題となります。
上記事例のように、親権者が総取りするようなケースでは、各人の生活状況や、子に対する身上監護の予定など、「法定相続分は下回るが、実質的に未成年者の利益は確保されていること。」を裁判所に対して説明する必要が出てくるでしょう。
6.特別代理人が選任された後
特別代理人選任後は、通常の遺産分割同様です。
変わる点は、
- 未成年の子に代わって特別代理人が協議に参加すること
- 不動産の名義変更等にあたっては、通常必要となる書類に加え、特別代理人の選任審判書・印鑑証明書が必要となります。
(未成年者自身の印鑑証明書は不要。)
なお、遺産分割協議の結果、未成年者が不動産を取得する場合の登記申請については、下記「関連記事」に掲載した「未成年者からの登記申請」にて確認のこと。

