(注)司法書士業務(書類作成業務のみ)として取り扱うことも無いとは思うが、整理のために、確認したもの。
0.モデルケース
A株式会社(取締役会設置会社)において、取締役を務めていた甲・乙・丙の3名。
その後、事情があって、乙は取締役を辞任したが、いつまでたっても、代表取締役の甲が、乙の辞任による退任登記を申請してくれない(なお甲は、A社の100%株主でもある。)。
乙さんとしては、ずっと会社登記簿に名前が残っているのは困るので、なんとか辞任の登記を入れたい。
どうしたものか?
1.権利義務取締役
取締役会設置会社においては、最低限3名の取締役が必要です。
そのため、乙さんは、辞任したにもかかわらず、取締役としての権利義務を有しています。
したがい、登記手続き上、後任者の選任登記と同時でなければ、辞任による退任登記は受理されません。
会社法(平成十七年法律第八十六号)
第三百四十六条
役員(・・・)が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。
2.仮取締役の選任
後任者を選任するのはA社のやることであり、実質的には、100%株主である甲の裁量によります。
甲が選任手続きに着手しない場合には、乙さんとしては、裁判所に仮取締役の選任を申立てるほかないでしょう。
(仮取締役の選任を認めてもらう要件を充足するか、また認められたとしても予納金の問題もあります。。。
後記裁判所HP参照。)
会社法(平成十七年法律第八十六号)
第三百四十六条
2 前項に規定する場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時役員の職務を行うべき者を選任することができる。
3.A社に対する裁判
A社に対して、乙さんは、「年月日A辞任による変更登記を申請せよ。」との判決を求め裁判をおこします。
これにより勝訴判決を得たのならば、乙さんがA社を代理して登記申請を行い、乙さん辞任の登記がなされることになります。
なお、仮取締役の選任がなされた場合、この選任登記は、裁判所書記官の嘱託によります。
会社法(平成十七年法律第八十六号)
第九百三十七条
次に掲げる場合には、裁判所書記官は、職権で、遅滞なく、会社の本店(・・・)の所在地を管轄する登記所にその登記を嘱託しなければならない。
二 次に掲げる裁判があったとき。
イ 第三百四十六条第二項(・・・)の規定による一時取締役(・・・)執行役又は代表執行役の職務を行うべき者の選任の裁判
(・・・)