1.最判平成11年6月24日
(1)要旨
遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与を受けた者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法一六二条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、右贈与に対する減殺請求による遺留分権利者への右目的物についての権利の帰属は妨げられない。
(2)単純化した事案紹介
X、Yはいずれも被相続人Aの子。
Aは平成2年1月24日に死亡。Aは昭和51年11月に本件不動産をYに贈与した。
Aについて本件不動産以外には財産はなく、AもYも、この事実を知っていた。
Xは、平成2年12月19日に、Yに対して遺留分減殺請求をした。
これに対し、Yは、本件贈与から10年が経過したことにより、本件不動産を時効取得したから本件贈与に対して減殺請求をすることはできないと主張した。
2.理由づけ:判決から引用
民法は、遺留分減殺によって法的安定が害されることに対し一定の配慮をしながら(一〇三〇条前段、一〇三五条、一〇四二条等)、遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与については、それが減殺請求の何年前にされたものであるかを問わず、減殺の対象となるものとしている。
前記のような占有を継続した受贈者が贈与の目的物を時効取得し、減殺請求によっても受贈者が取得した権利が遺留分権利者に帰属することがないとするならば、遺留分を侵害する贈与がされてから被相続人が死亡するまでに時効期間が経過した場合には、遺留分権利者は、取得時効を中断する法的手段のないまま、遺留分に相当する権利を取得できない結果となる。
3.参考となる判例:自己所有の物についての時効取得
最判昭和42年7月21日
所有権に基づいて不動産を占有する者についても、民法一六二条の適用があるものと解すべきである。
けだし、取得時効は、当該物件を永続して占有するという事実状態を、一定の場合に、権利関係にまで高めようとする制度であるから、所有権に基づいて不動産を永く占有する者であつても、その登記を経由していない等のために所有権取得の立証が困難であつたり、または所有権の取得を第三者に対抗することができない等の場合において、取得時効による権利取得を主張できると解することが制度本来の趣旨に合致するものというべき。
民法一六二条が時効取得の対象物を他人の物としたのは、通常の場合において、自己の物について取得時効を援用することは無意味であるからにほかならないのであつて、同条は、自己の物について取得時効の援用を許さない趣旨ではない。