目次
1.相続分の譲渡
(1)相続分の性質
相続分とは、相続財産全体(積極財産のみならず消極財産も含む)に対する各相続人の持分のことをいう。
相続分は、遺言で指定することもできるが、指定がない場合には法定相続分が適用される。
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(法定相続分)
第九百条
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
(遺言による相続分の指定)
第九百二条
被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。
2 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。
(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使)
第九百二条の二
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。
(2)相続分の譲渡
相続分は譲渡することができる。
(民法905条は、譲渡できることを前提としている。)
(相続分の取戻権)
第九百五条
共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。
相続分の譲渡をすることで、譲受人は遺産分割協議に参加することができるようになる。
相続分の譲渡は、相続人としての地位の譲渡の意味合いをもつ。
共同相続人間で相続分が譲渡されたときについては、つぎの判例を参照。
(なお、本判例は「共同相続人間においてされた相続分の譲渡に伴って生ずる農地の権利移転については,農地法3条1項の許可を要しない。」としたもの。)
最判平成13年7月10日民集第55巻5号955頁
共同相続人間で相続分の譲渡がされたときは,積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する譲渡人の割合的な持分が譲受人に移転し,譲受人は従前から有していた相続分と新たに取得した相続分とを合計した相続分を有する者として遺産分割に加わることとなり,分割が実行されれば,その結果に従って相続開始の時にさかのぼって被相続人からの直接的な権利移転が生ずることになる。
「相続分の譲渡」については、遺産分割協議に遡及効があることと異なり、遡及効はない。
また、消極財産については、債権者の関与なく実施されるものであるから効力は及ばない。
譲受人が、従前の法定相続分の割合で負担することになる(譲渡人においては、相続分の譲渡の適否につき、慎重に検討しなければならない。)(にもかかわらず、実務上、相続分全部を譲渡した相続人は、遺産分分割手続きにおける当事者適格を失うとされている。)。
2.相続分の譲渡と不動産登記
(1)昭和59年先例【昭和59年10月15日民三第5195号・第5196号回答】
旧先例は、つぎのような事例(弁護士照会)に対する回答である。
- 被相続人Aの共同相続人はB/C/D/E/Fの5名(各5分の1)。
- 相続人C/D/Eは、その相続分をBに譲渡した。
- この場合、Aから直接、B/F(それぞれ持分5分の4、持分5分の1。)に相続登記できるよね?
- 同じように、B/Fが遺産分割協議(Bが単独取得する旨)を行い、これに基づきBに相続登記できるよね?
上記照会について、いずれも「貴見のとおり」とされている。
(2)平成4年先例【平成4年3月18日民三第1404号回答】
こちらも弁護士照会への回答。
- 被相続人甲の共同相続人は、乙/丙/戊(戊は子である丁の代襲相続人)である。
- 相続登記未了のうち、乙の死亡により、A/B/Cが相続人となった。
- 相続登記未了のうち、丙の死亡によりX(子であるDの代襲相続人)が相続人となった。
- 戊/A/Xが各自の相続分を、B/Cに均等の割合で譲渡した。
- この場合、B/Cに対する相続登記できるよね?
上記照会に対して「不可」と回答されている。
この場合には、つぎのとおり登記しなければならない。
- 甲死亡による、乙/丙/戊への相続登記。
- 乙死亡による、B/Cへの相続登記(Aについては相続分譲渡がされているため)
- 丙死亡による、Xへの相続登記。
- 相続分の贈与等を原因とする戊/Xから、B/Cに対する所有権移転登記。
ややこい。要するに異順位間での相続分の譲渡が行われた場合には、相続分譲渡について登記しなければならないということ。
詳細な解説は、『登記研究536号155頁』を参照。
(S59年先例が例外的に許容しただけであって、本来は、相続分の譲渡による物権変動は「省略することなく」登記されるべきとの考え。)
(2)平成30年先例【平成30年3月16日民二第136号回答・第137号通知】
こちらは法務局内での照会に対する回答。
- 所有権登記名義人Aが死亡し、その相続人はB/C/Dである。
- 遺産分割協議未了のまま、Dが死亡し、その相続人はE/Fである。
- B/Cは、その相続分をE/Fに均等の割合で譲渡した。
- E/Fにおいて遺産分割協議(Eが取得する旨)をし、これに基づきAからEに相続登記ができるよね?
この照会に対して「貴見のとおり」と回答されている。
なお、平成30年先例では、過去の2つの先例について言及はない。
詳細な解説は、『登記研究848号159頁』を参照。
(平成4年先例の考え方を踏襲しつつ、まず同先例を「相続分の譲渡がされ、その後遺産分の分割が行われていない事案」と整理している。そのうえで、相続分の譲渡が行われた後に遺産分割協議が行われた場合には、相続分の譲渡について独自の登記をする必要はないとしている。)
この先例の意図は、上記解説を読まないとわからない気がする。どうせなら、B/F間で協議する事案で先例を出して欲しかった・・・。
3.まとめ
(1)遺産分割がなされた場合については遡及効!
相続分の譲渡も、それ自体独自の物権変動であるから、原則的には独自に登記されなければならない。
ただし、例外的に、公示上の混乱が起きないと考えられる場合(昭和59年先例の3点目。相続分譲渡後の法定相続分に基づく登記を認めるもの。)には、相続分の譲渡については登記不要だよ。
また、相続分譲渡のあとに遺産分割協議がなされた場合には、遺産分割協議の遡及効により、相続開始時に不動産を取得したことになるから、相続開始後・分割協議前になされた相続分譲渡をわざわざ登記する必要はない。
以上の考えに従えば、仮に平成30年先例の事案で「B/Fに相続分が譲渡され、B/F間で協議した結果、B/Fが取得することになった。」としたら、
(1)「B/D」に相続登記し、(2)D持分を「F」に相続登記することになると考えられる。
さらに、仮に平成30年先例の事案で「関係する相続人全員がBに相続分を譲渡した。」としたら、残念ながら遺産分割協議が行われていない(遡及効が生じない)ので、平成4年先例にならい、順次相続登記と相続分の譲渡(贈与等)による登記を行わなければいけない(はず)!
(2)相続人以外の第三者に譲渡された場合には?
こちらは質疑応答(登記研究728号243号)を参照。
この場合には、相続分の譲渡につき省略することは許されない。
公示上、共同相続人間での「相続分の譲渡」と、相続人以外の者への「相続分の譲渡」は取扱いを別にすべきと考える。
したがって、昭和59年先例も妥当しない(第1に法定相続登記。第2に「相続分の譲渡(贈与等)」による登記。第3に「遺産分割」による登記をすべき。)。
(3)感想
相続分の譲渡により、個別の不動産について物権変動が生じているのだろうか?
数次相続の場合において、1名の相続人に対して他の相続人全員が相続分を譲渡したケースについては、「一人遺産分割が否定」されたのと同様に、1名の相続人に複数の相続人の資格が集結してしまったのだから、直接相続登記を認めても良いのではないだろうか?
「(数次相続を含む)相続人10人から相続分譲渡により2人に集約されて、最後に2人で遺産分割をした。」というケースと、「(数次相続を含む)相続人5人から相続分譲渡により1人に集約された。」ケースにおいて、後者については「公示上の混乱を招来するから」という理由でヨリ複雑な登記手続を強いる合理性があるのだろうか?
