目次
1.合同会社における社員の加入(原則)
(1)条文
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(社員の加入)
第六百四条
持分会社は、新たに社員を加入させることができる。
2 持分会社の社員の加入は、当該社員に係る定款の変更をした時に、その効力を生ずる。
3 前項の規定にかかわらず、合同会社が新たに社員を加入させる場合において、新たに社員となろうとする者が同項の定款の変更をした時にその出資に係る払込み又は給付の全部又は一部を履行していないときは、その者は、当該払込み又は給付を完了した時に、合同会社の社員となる。
(定款の変更)
第六百三十七条
持分会社は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の同意によって、定款の変更をすることができる。
(定款の記載又は記録事項)
第五百七十六条
持分会社の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
一 目的
二 商号
三 本店の所在地
四 社員の氏名又は名称及び住所
五 社員が無限責任社員又は有限責任社員のいずれであるかの別
六 社員の出資の目的(有限責任社員にあっては、金銭等に限る。)及びその価額又は評価の標準
(・・・)
4 設立しようとする持分会社が合同会社である場合には、第一項第五号に掲げる事項として、その社員の全部を有限責任社員とする旨を記載し、又は記録しなければならない。
(2)整理
はじめに「持分会社」の定義について確認しておく。
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(定款の作成)
第五百七十五条
合名会社、合資会社又は合同会社(以下「持分会社」と総称する。)を設立するには、その社員になろうとする者が定款を作成し、その全員がこれに署名し、又は記名押印しなければならない。
(・・・)
というわけで、以下「持分会社」との条文の記載は、合同会社と読み替えて検討していく。
(とくに言及せず「社員」等の用語を利用する場合には、「合同会社の社員」との意味で使用していく。)
まず576条において、合同会社の定款においては「社員の氏名又は名称及び住所」を記載(又は記録。以下では単に「記載」とする。)しなければならない。
そして、定款変更については、総社員の同意が必要とされている。
あらたな社員の加入は、定款における「社員の氏名又は名称及び住所」の変更(新たな社員の氏名・住所の追記)となるから、総社員の同意が必要ということになる。
加入の効力発生時期も、会社法604条2項により「定款変更時」とされている。
(ただし、合同会社においては、定款変更時に払込みが完了していない場合、払込みが完了したときに加入の効力が生じる。)
(3)「定款に別段の定めがあるとき」
ただし、これが合同会社の恐ろしいところであるが、定款変更の効力要件については「定款に別段の定め」をおくことができる。
たとえば社員の加入にかかる定款変更については「代表社員の同意で足りる」「業務執行社員の過半数の同意で足りる」などの規定もOKとされる。
【参考:相澤 哲 (編集)『論点解説新・会社法: 千問の道標』商事法務 (2006/6/1)P.826】
2.社員の加入と資本金の額の変更
(1)条文
会社計算規則(平成十八年法務省令第十三号)
(資本金の額)
第三十条
持分会社の資本金の額は、第四節【吸収合併等】に定めるところのほか、次の各号に掲げる場合に限り、当該各号に定める額の範囲内で持分会社が資本金の額に計上するものと定めた額が増加するものとする。
一 社員が出資の履行をした場合(履行をした出資に係る次号の債権が資産として計上されていた場合を除く。) イ及びロに掲げる額の合計額からハに掲げる額の合計額を減じて得た額(零未満である場合にあっては、零)
イ 当該社員が履行した出資により持分会社に対し払込み又は給付がされた財産(当該財産がロに規定する財産に該当する場合における当該財産を除く。)の価額
ロ 当該社員が履行した出資により持分会社に対し払込み又は給付がされた財産(当該財産の持分会社における帳簿価額として、当該財産の払込み又は給付をした者における当該払込み又は給付の直前の帳簿価額を付すべき場合における当該財産に限る。)の払込み又は給付をした者における当該払込み又は給付の直前の帳簿価額の合計額
ハ 当該出資の履行の受領に係る費用の額のうち、持分会社が資本金又は資本剰余金から減ずるべき額と定めた額
二 持分会社が社員に対して出資の履行をすべきことを請求する権利に係る債権を資産として計上することと定めた場合当該債権の価額
三 持分会社が資本剰余金の額の全部又は一部を資本金の額とするものと定めた場合当該資本剰余金の額
(・・・)
(2)整理
合同会社においては、「社員の加入」=「出資に係る払込みの履行」であるから、上記会社計算規則30条の規定に基づいて、資本金の額に変更が生じる可能性がある。
同条に基づき、履行された出資に基づき払込みされた価額を「資本金の額」に計上するとの決定がなされた場合には、当然ながら「資本金の額」についても登記の変更が必要となる。
なお、履行された出資に基づき払込みされた価額の全額を「資本金の額」には計上しないとの決定も可能であり、その場合には「資本剰余金」が増加する。
会社計算規則(平成十八年法務省令第十三号)
(資本剰余金の額)
第三十一条
持分会社の資本剰余金の額は、第四節に定めるところのほか、次の各号に掲げる場合に限り、当該各号に定める額が増加するものとする。
一 社員が出資の履行をした場合(履行をした出資に係る次号の債権が資産として計上されていた場合を除く。)イに掲げる額からロに掲げる額を減じて得た額
イ 前条第一項第一号イ及びロに掲げる額の合計額からハに掲げる額を減じて得た額
ロ 当該出資の履行に際して資本金の額に計上した額
(・・・)
3.持分の譲受けによる加入
(1)条文
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(持分の譲渡)
第五百八十五条
社員は、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができない。
2 前項の規定にかかわらず、業務を執行しない有限責任社員は、業務を執行する社員の全員の承諾があるときは、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができる。
3 第六百三十七条の規定にかかわらず、業務を執行しない有限責任社員の持分の譲渡に伴い定款の変更を生ずるときは、その持分の譲渡による定款の変更は、業務を執行する社員の全員の同意によってすることができる。
4 前三項の規定は、定款で別段の定めをすることを妨げない。
(2)整理
合同会社の社員は、他の社員の全員の承諾があれば、その持分の全部(又は一部)を他人に譲渡することができる。
ただし、業務執行社員以外の社員については、業務執行社員の全員の承諾があれば、その持分の全部(又は一部)を他人に譲渡することができる。
(なお、会社法585条4項は「定款で別段の定めをすること」を許容している。)
そして、社員でない他人に対して、持分の全部(又は一部)を他人に譲渡した場合には、当該他人が社員として加入する。
また、持分の全部を他人に譲渡した場合には、譲渡した社員は退社することとなる。
これは、社員の変更(加入と、全部譲渡の場合には退社。)であり「定款の変更」が必要な手続きである。
定款変更については、すでに紹介した会社法637条により「総社員の同意」が必要となるのが原則である。
ただし、業務執行社員以外の社員の持分譲渡については、譲渡に対する承諾の要件の緩和にならい、定款変更の要件も緩和されている(585条3項)。
(なお、定款変更の要件につき「定款に別段の定め」をすることも認められている点に留意。)
【参考:相澤 哲 (編集)『論点解説新・会社法: 千問の道標』商事法務 (2006/6/1)P.571】
(3)資本金の額の変更?!
持分譲渡にあたっては資本金の額の変更は生じない。
4.相続及び合併の場合の特則
(1)条文
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(相続及び合併の場合の特則)
第六百八条
持分会社は、その社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合における当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めることができる。
2 第六百四条【社員の加入】第二項の規定にかかわらず、前項の規定による定款の定めがある場合には、同項の一般承継人(社員以外のものに限る。)は、同項の持分を承継した時に、当該持分を有する社員となる。
3 第一項の定款の定めがある場合には、持分会社は、同項の一般承継人が持分を承継した時に、当該一般承継人に係る定款の変更をしたものとみなす。
4 第一項の一般承継人(相続により持分を承継したものであって、出資に係る払込み又は給付の全部又は一部を履行していないものに限る。)が二人以上ある場合には、各一般承継人は、連帯して当該出資に係る払込み又は給付の履行をする責任を負う。
5 第一項の一般承継人(相続により持分を承継したものに限る。)が二人以上ある場合には、各一般承継人は、承継した持分についての権利を行使する者一人を定めなければ、当該持分についての権利を行使することができない。ただし、持分会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
(2)整理
上記のような定款の定めがない場合には「社員は退社」し、「当該社員の一般承継人」が持分の払戻しを受けることになる。
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(法定退社)
第六百七条
社員は、前条、第六百九条第一項、第六百四十二条第二項及び第八百四十五条の場合のほか、次に掲げる事由によって退社する。
一 定款で定めた事由の発生
二 総社員の同意
三 死亡
四 合併(合併により当該法人である社員が消滅する場合に限る。)
五 破産手続開始の決定
六 解散(前二号に掲げる事由によるものを除く。)
七 後見開始の審判を受けたこと。
八 除名
(・・・)
(退社に伴う持分の払戻し)
第六百十一条
退社した社員は、その出資の種類を問わず、その持分の払戻しを受けることができる。ただし、第六百八条第一項及び第二項の規定により当該社員の一般承継人が社員となった場合は、この限りでない。
2 退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない。
3 退社した社員の持分は、その出資の種類を問わず、金銭で払い戻すことができる。
4 退社の時にまだ完了していない事項については、その完了後に計算をすることができる。
5 社員が除名により退社した場合における第二項及び前項の規定の適用については、これらの規定中「退社の時」とあるのは、「除名の訴えを提起した時」とする。
6 前項に規定する場合には、持分会社は、除名の訴えを提起した日後の法定利率による利息をも支払わなければならない。
7 社員の持分の差押えは、持分の払戻しを請求する権利に対しても、その効力を有する。
「できる」規定だが、持分の払戻しを希望しない場合にはどうなるのだろうか?
それはともかくとして、608条は、607条に対する特則である。
なお、当然ながら、承継加入のルールについても「定款で別段の定め」をすることが可能である。
よく例示されるのが、つぎのような規定の仕方である。
- 例1:「他の社員の承諾を得て、持分を承継する。」
- 例2:「持分を承継することができる。」
「できる」規定の意義は、一般承継人に選択権を与えるもの。
(一般承継人において加入の意思表示が必要。)
5.まとめ
結局のところ、定款で別段の定めが可能である。
下記の記載が沁みる。
持分会社の持分については、株式会社の株式と異なり、その流通の円滑化等を特に図る必要はないものとして、会社法上、定款の内容を十分に確認しないで社員となる者を保護するための格別の規定は設けられておらず・・・
【相澤 哲 (編集)『論点解説新・会社法: 千問の道標』商事法務 (2006/6/1)P.606より】