連帯保証と主債務と消滅時効

1.はじめに

(1)条文

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(時効の援用)
第百四十五条 
時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。

(2)整理

保証人は145条にいう『当事者』として、自らの保証債務について、時効援用して消滅させることができる。

同様に保証人は、145条にいう『当事者』として『主たる債務』について時効援用することにより、自身の保証債務を付従性により消滅させることもできる。

2.主たる債務の消滅時効完成『前』の保証債務の消滅時効

(1)相対効により主たる債務には影響しない

参照条文

(時効の完成猶予又は更新の効力が及ぶ者の範囲)
第百五十三条 
第百四十七条又は第百四十八条の規定による時効の完成猶予又は更新は、完成猶予又は更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
2 第百四十九条から第百五十一条までの規定による時効の完成猶予は、完成猶予の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。
3 前条の規定による時効の更新は、更新の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。

そのため、たとえば保証人による保証債務の弁済は、保証債務の承認(これにより保証債務の『更新』)の効力を生じさせるが、主たる債務との関係では、更新の効力は生じない。

ただし、最判平成25年9月13日に留意。

最判平成25年9月13日民集第67巻6号1356頁

【要旨】

保証人が主たる債務を相続したことを知りながら保証債務の弁済をした場合、当該弁済は、特段の事情のない限り、主たる債務者による承認として当該主たる債務の消滅時効を中断する効力を有する。

【判決文より抜粋】
主たる債務を相続した保証人は,従前の保証人としての地位に併せて,包括的に承継した主たる債務者としての地位をも兼ねるものであるから,相続した主たる債務について債務者としてその承認をし得る立場にある。そして,保証債務の附従性に照らすと,保証債務の弁済は,通常,主たる債務が消滅せずに存在していることを当然の前提とするものである。しかも,債務の弁済が,債務の承認を表示するものにほかならないことからすれば,主たる債務者兼保証人の地位にある者が主たる債務を相続したことを知りながらした弁済は,これが保証債務の弁済であっても,債権者に対し,併せて負担している主たる債務の承認を表示することを包含するものといえる。これは,主たる債務者兼保証人の地位にある個人が,主たる債務者としての地位と保証人としての地位により異なる行動をすることは,想定し難いからである。

(2)民法改正(令和2年4月1日施行)による「履行の請求」の効力の変更

参照条文

【改正前】民法(明治二十九年法律第八十九号)

(連帯保証人について生じた事由の効力)
第四百五十八条 
第四百三十四条から第四百四十条までの規定は、主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合について準用する。

(連帯債務者の一人に対する履行の請求)
第四百三十四条 
連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても、その効力を生ずる。

参照条文

附 則 (平成二九年六月二日法律第四四号)

(時効に関する経過措置)
第十条 
施行日前に債権が生じた場合(施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む。以下同じ。)におけるその債権の消滅時効の援用については、新法第百四十五条の規定にかかわらず、なお従前の例による。
2 施行日前に旧法第百四十七条に規定する時効の中断の事由又は旧法第百五十八条から第百六十一条までに規定する時効の停止の事由が生じた場合におけるこれらの事由の効力については、なお従前の例による。
3 新法第百五十一条の規定は、施行日前に権利についての協議を行う旨の合意が書面でされた場合(その合意の内容を記録した電磁的記録(新法第百五十一条第四項に規定する電磁的記録をいう。附則第三十三条第二項において同じ。)によってされた場合を含む。)におけるその合意については、適用しない。
4 施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による。

3.主たる債務の消滅時効完成『後』の保証債務の消滅時効

(1)保証債務について時効の完成猶予または更新がされた場合

こちらも相対効(民法153条1項)による。

保証人は「保証債務」について時効援用することはできないが、主たる債務について時効援用することができる。

(2)保証人により保証債務の承認がなされた場合

主たる債務の消滅時効完成『後』に、保証人が保証債務を承認したとする。
その後に、保証人は、主たる債務について時効援用することが可能か?

原則:主たる債務について時効援用することが可能

例外(判例):保証債務の承認をした際に「主たる債務の時効消滅を認識していた(主たる債務について時効の利益を放棄した)場合」には主たる債務について時効援用することはできない。
(最判平成7年9月8日・原審東京高判平成7年2月14日判時1526号102頁。)

(3)主たる債務者が時効の利益を放棄したり時効援用権を喪失した場合

相対効により、主たる債務者が時効の利益を放棄しても、保証人は、主たる債務について時効援用することが可能。

また、主たる債務者が時効援用権を喪失した場合についても、その喪失は、「信義則」に照らし「主たる債務者が時効援用することを許さない」というもの。
よって、保証人の時効援用の可否には影響しない。

最判昭和41年4月20日民集第20巻4号702頁

【抜粋】

時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、
相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし、相当である

4.主たる債務者の破産・再生等の手続きの影響

(1)破産手続き

主債務者に破産手続開始決定があっても、さらには免責決定を受けた場合であっても、保証債務が消滅することはない。

参照条文

破産法(平成十六年法律第七十五号)

(免責許可の決定の効力等)
第二百五十三条 
(・・・)
2 免責許可の決定は、破産債権者が破産者の保証人その他破産者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び破産者以外の者が破産債権者のために供した担保に影響を及ぼさない。
(・・・)

※法人の場合も、明文規定はないが、判例上、保証債務は消滅しないとされている。

この場合に、保証人は「主債務について」時効援用をすることができるのか?
時効援用の可否は、破産手続きにおける「債権届出」手続きの時点で、消滅時効が完成しているかどうかによる。

【1】消滅時効が完成している場合
時効援用可。
【2】消滅時効が完成していない場合
債権届出により時効完成猶予となる。(下記条文参照)
さらに確定した破産債権は、破産債権者表への記載が「確定判決と同一の効力」を有する(下記、破産法の条文参照。)。そのため民法147条2項により時効更新となる。

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
第百四十七条 
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
(・・・)
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。

参照条文

破産法(平成十六年法律第七十五号)

(異議等のない破産債権の確定)
第百二十四条 
第百十七条【認否書の作成及び提出】第一項各号(第四号を除く。)に掲げる事項は、破産債権の調査において、破産管財人が認め、かつ、届出をした破産債権者が一般調査期間内若しくは特別調査期間内又は一般調査期日若しくは特別調査期日において異議を述べなかったときは、確定する。
2 裁判所書記官は、破産債権の調査の結果を破産債権者表に記載しなければならない。
3 第一項の規定により確定した事項についての破産債権者表の記載は、破産債権者の全員に対して確定判決と同一の効力を有する

(2)免責決定とその後の時効援用について

免責決定を受けた債権については、消滅時効の進行を観念することはできない。

最判平成11年11月9日 民集53巻8号1403頁

免責決定の効力を受ける債権は、債権者において訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなり、右債権については、もはや【旧】民法一六六条一項に定める「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」を起算点とする消滅時効の進行を観念することができないというべきであるから、破産者が免責決定を受けた場合には、右免責決定の効力の及ぶ債務の保証人は、その債権についての消滅時効を援用することはできない

そんなわけで、保証人としては、主債務の消滅時効を援用する余地はないため、保証債務の消滅時効の援用の可否を検討するしかない。

(3)再生手続きの場合

体力と知力が不足しているため、ここで断念。

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