株主について相続が発生した場合に、株式はどのように承継されるのか(あるいは承継されないのか。)。
基本的には、定款の定めによって決めるケースが大多数ではあろうが、仮に定款に何らの定めも設けられていなかったら、という観点から確認。
1.株式会社
(1)条文の確認
株式会社にあっては、譲渡制限株式であっても、相続等の一般承継については承認を要せずして、当然に承継。
被相続人の株式は、被相続人の相続財産となり、遺産分割の対象となる(そのため、たとえば100株の株式を持っていた場合に、配偶者と子1名が相続人にいても、配偶者50株・子50株というように相続人の相続分に応じて当然に按分されるということにはならない。割合的地位をそのままに承継するということか?)。
ただし、遺産共有の状態となった株式については、遺産分割協議により相続財産の取得者が確定する前においても、次の条文により権利行使者を定めることができる。
会社法(平成十七年七月二十六日法律第八十六号)
第百六条
株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
第百七十四条
株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。
最判昭和45年1月22日
「株式を相続により準共有するに至つた共同相続人は、商法二〇三条二項の定めるところに従い、当該株式につき株主の権利を行使すべき者一人を定めて会社に通知すべき」
その権利行使者の定め方については、次の判例を参照。
最判平成9年1月28日
有限会社の持分を相続により準共有するに至った共同相続人が、準共有社員としての地位に基づいて社員総会の決議不存在確認の訴えを提起するには、有限会社法22条、商法203条2項により、社員の権利を行使すべき者(以下「権利行使者」という)としての指定を受け、その旨を会社に通知することを要するのであり、この権利行使者の指定及び通知を欠くときは、特段の事情がない限り、右の訴えについて原告適格を有しないものというべきである(最高裁平成元年(オ)第573号同2年12月4日第三小法廷判決・民集44巻9号1165頁参照)。そして、この場合に、持分の準共有者間において権利行使者を定めるに当たっては、持分の価格に従いその過半数をもってこれを決することができるものと解するのが相当である。けだし、準共有者の全員が一致しなければ権利行使者を指定することができないとすると、準共有者のうちの一人でも反対すれば全員の社員権の行使が不可能となるのみならず、会社の運営にも支障を来すおそれがあり、会社の事務処理の便宜を考慮して設けられた右規定の趣旨にも反する結果となるからである。
(2)整理
株式が一般承継の対象となることは以上のとおり。
これを会社側からみると、従来の株主からその相続人にかわることとなる。
この点については、特に閉鎖的な株式会社においては、株主間の人的関係が重視されることもあるため、前記174条のとおり会社に買取請求権を付与することを可能としている。
留意点は、(1)譲渡制限株式に限ること、(2)売渡請求ができる旨の定款の定めがあること、の2点。
2.合同会社
合同会社(持分会社)については、以下の条文を参照。
株式会社に比べて、より人的関係が重視されるべきとされるため、原則と例外が入れ替わる。
定款に別段の定めがなければ、「社員の持分は一般承継されない」という点に注意。
会社法
第六百八条 持分会社は、その社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合における当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めることができる。
2 第六百四条第二項の規定にかかわらず、前項の規定による定款の定めがある場合には、同項の一般承継人(社員以外のものに限る。)は、同項の持分を承継した時に、当該持分を有する社員となる。
3 第一項の定款の定めがある場合には、持分会社は、同項の一般承継人が持分を承継した時に、当該一般承継人に係る定款の変更をしたものとみなす。
4 (・・・)。
5 第一項の一般承継人(相続により持分を承継したものに限る。)が二人以上ある場合には、各一般承継人は、承継した持分についての権利を行使する者一人を定めなければ、当該持分についての権利を行使することができない。ただし、持分会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
したがって、社員持分を承継させる場合には、「当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨」を定款で定める必要がある。
なお、次の先例に留意。
昭和34年01月14日民事甲2723回答
定款において「無限責任社員が死亡したときは、その相続人において当然入社する」旨の規定ある合資会社の無限責任社員が死亡した場合、共同相続人間の遺産分割契約により相続人の1人が会社出資金の全部を取得した場合、その者のみの入社登記は受理できない。
以上の先例により、たとえば3人の相続人がいて、その中の1人の相続人が持分を承継するとの遺産分割協議が整ったとしても、被相続人から当該1人の相続人に社員を変更することはできない(そもそも相続財産を構成しないため、一旦3名を社員とする変更登記をいれる必要があり、その後、2名の社員持分を当該1名に譲渡する形となる。)。なお、持分会社全般に適用される先例であるかは未確認。
社員持分を「相続財産とする」というような定款の定め、あるいは他の社員による承諾等を必要とする形にできるか否かについては明文規定を確認できなかった。
「ダメ」とは書いていないから、できるという話になるのだろうか?