免責的債務引受について(抵当権変更との関係から)

2026年5月6日

1.条文

(1)民法472条ほか

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(免責的債務引受の要件及び効果)
第四百七十二条 
免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。
2 免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。
3 免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。

(免責的債務引受における引受人の抗弁等)
第四百七十二条の二 
引受人は、免責的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。
2 債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、免責的債務引受がなければこれらの権利の行使によって債務者がその債務を免れることができた限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

(免責的債務引受における引受人の求償権)
第四百七十二条の三 
免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しない。

(2)整理

令和2年4月1日施行の民法(債権)改正により、新設された条項である(以下当該改正による民法を「改正法」という。)。
それまでは、債務引受に関する規定はなかったものの、判例・学説・実務において認められていた。

債務引受とは「引受人に対して、債務者と同一内容の債務を負担させること。」をいう。
従来の債務者が、引き続き債務を負うのであれば「併存的債務引受」となり、
従来の債務者が、債務を免れるのであれば「免責的債務引受」となる。

(とくに免責的債務引受について「債務を移転する」という表現をみることがあるが、後述の担保の移転との関係で適切でないように思う。)

この記事では「免責的債務引受」について、その内容を確認していく。

2.合意の方式

(1)三者間契約、二者間契約

民法改正前より、三者間(債権者・債務者・引受人)の合意によって、債務引受が可能であることに異議はなかった。
(条文上も、三者間契約ができることは当然の前提として、記載がない。)

改正法では、三者間契約に加えて、二者間での合意による債務引受についても規定している。

(2)債権者と引受人の二者間契約の場合

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(免責的債務引受の要件及び効果)
第四百七十二条 
 (・・・)
2 免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。
3 (・・・)

「債権者と引受人との契約」による免責的債務引受にあっては、
債権者が債務者に対して、免責的債務引受契約をした旨を通知したときに効力が発生する。
(債務者の意思に反した免責的債務引受を認めないという判例理論があったが、そのような債務者の意思は法的保護に値しないものとされた(民法519条の債務免除に関する規定も参照。)。)

契約の効力発生日が「債務者へ通知した日」であることに留意が必要(後述の登記原因日付となる。)。

(3)債務者と引受人の二者間契約の場合

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(免責的債務引受の要件及び効果)
第四百七十二条 
(・・・)
2 (・・・)
3 免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。

「債務者と引受人との契約」による免責的債務引受にあっては、
債権者が引受人に対して、免責的債務引受契約について承諾したときに効力が発生する。

債権者の関与なしに「債務者」が変わってしまっては、引受人の資力によっては債権者を害するおそれもある。そのため、債権者の承諾を要件とした。

「承諾の効力が、債務者と引受人との契約締結時に遡及するのか?」という論点があるが、この点については以下を参照のこと。
【東京司法書士会民法改正対策委員会/編『Q&Aでマスターする民法改正と登記実務 債権関係の重要条文ポイント解説77問』(日本加除出版、2016年)195頁】

3.担保の移転(とりわけ抵当権について)

(1)免責的債務引受けと担保の関係

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(免責的債務引受による担保の移転)
第四百七十二条の四 
債権者は、第四百七十二条第一項の規定により債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を引受人が負担する債務に移すことができる。ただし、引受人以外の者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。
2 前項の規定による担保権の移転は、あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示によってしなければならない。
3 前二項の規定は、第四百七十二条第一項の規定により債務者が免れる債務の保証をした者があるときについて準用する。
4 前項の場合において、同項において準用する第一項の承諾は、書面でしなければ、その効力を生じない。
5 前項の承諾がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その承諾は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。

こちらも改正による新設である。

1項の「移すことができる」との文言のとおり、「必ず移る」というわけではない。
(改正前は、担保提供者の同意が必要との考えが通説?詳細は、下記「たたき台(2)」のp.41を参照。改正前も、バンバン免責的債務引受による抵当権変更登記を行っていたが、登記実務的には安定したものだっただけで、理論的には不確かさのあるものだったのかと、今更ながらに感じた。)

法制審議会民法(債権関係)部会第77回会議(平成25年9月17日開催)
部会資料67A「民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(2) 」p.41より

免責的債務引受が成立する場合に、債務者が負担する債務のために設定されていた担保権又は保証については、債務者が交替することによって担保設定や保証の前提が変わることになるため、当然に引受人が負担する債務を担保することになるのは妥当でない。

また「移す」という言葉の意味合いにも留意が必要。

法制審議会民法(債権関係)部会第77回会議(平成25年9月17日開催)
部会資料67A「民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(2) 」p.41より

担保権を「移すことができる」としているのは、後順位担保権者の承諾がなくても、順位を維持したまま移転させることができるという趣旨であるが、これを認めるのは、債務者の交替による更改について担保の移転を認める民法第518条が、同順位での担保の移転を認めていることとのバランスを考慮したものである。

そう考えると、抵当権も債権額の枠(「債務者」の表示は便宜的なものであり、債務者の属性は後順位抵当権者等が関係するものではない)に過ぎないように感じる。

(2)担保を移すための承諾・意思表示

改めて条文を整理すると、次のとおり。

  • 「債権者」は、担保権を引受人が負担する債務に移すことができる。
  • ただし、「引受人以外の者」が担保設定者である場合には、その者の承諾を得なければならない。
  • また、移転にあたっては「引受人」に対して、「(債務引受の効力が生じる前又は同時に」、移転させる旨の意思表示が必要である。

「引受人」が担保設定者であれば、引受人は債務引受をするかしないかの判断にあたって、自己が提供している担保が引き続き担保に供されることを覚悟したうえで意思決定する必要がある。
(この場合には、引受人は、担保の移転について拒否権がないから)

「債務者」が担保設定者の場合は、担保の移転にあたって債務者は「承諾」を求められる立場にたつ。
逆にいうと、債権者にとっては、「債務者が担保の移転を承諾するかどうか」を債務引受の効力が発生する前に確認しておかなければいけないことに。
(とりわけ債権者と引受人との合意により債務引受を実施する場合には、特に留意が必要。なお、債務者・引受人との二面契約による場合であっても、債権者は担保移転にあたり債務者の承諾が必要となる。)

法制審議会民法(債権関係)部会第77回会議(平成25年9月17日開催)
部会資料67A「民法(債権関係)の改正に関する要綱案のたたき台(2) 」p.42より

債務者が免責的債務引受の当事者となっている場合であっても、免責的債務引受の合意とは別に担保移転の承諾の意思表示を要求することで、意図せず担保が移転する事態が生ずることを防止しようとするものである。

移転の意思表示は「あらかじめ又は同時に引受人に対して」する必要がある。
免責的債務引受の効力発生により、債務者に対する債務は消滅してしまう。そうなると付従性により担保権も消滅することになる。従って、消滅前に移転の有無を明らかにしておく必要があるとの趣旨で、意思表示の時期が限定されている。

4.抵当権との関係

(1)債務者の変更登記

条文上は「移す」という表現が使われているが、登記手続上は「抵当権変更登記」となる(抵当権の債務者を変更する登記)。

債務引受の効力が発生した日が「抵当権変更」の原因日付となる。
(二者間契約の場合には、承諾や通知到達の日付に留意する必要がある。)

(2)登記原因証明情報に記載すべきこと

三者間契約による場合(1)免責的債務引受契約の成立
(2)(引受人以外の者が担保提供者の場合)担保提供者の承諾があったこと。
(3)債権者により、引受人に対して、担保を移す旨の意思表示がなされたこと。
(4)以上により、債務者の変更があったこと。
※承諾・意思表示の時期にも留意!
「債権者・引受人」との合意による場合(1)免責的債務引受契約の成立
(2)債権者が、債務者に対して契約の成立を通知したこと。
(3)(引受人以外の者が担保提供者の場合)担保提供者の承諾があったこと。
(4)債権者により、引受人に対して、担保を移す旨の意思表示がなされたこと。
(5)以上により、債務者の変更があったこと。
※承諾・意思表示の時期にも留意!
「債務者・引受人」との合意による場合(1)免責的債務引受契約の成立
(2)債権者が契約を承諾したこと
(3)(引受人以外の者が担保提供者の場合)担保提供者の承諾があったこと。
(4)債権者により、引受人に対して、担保を移す旨の意思表示がなされたこと。
(5)以上により、債務者の変更があったこと。
※承諾・意思表示の時期にも留意!

(疑問)担保を移すことについて承諾が必要な場合に、その承諾が免責的債務引受契約の成立後になった場合にはどうなるのだろうか?
承諾が求められている以上、承諾がなければ「担保を移す旨の意思表示」がなされなかったことになると考えられる。そうなると、免責的債務引受の効力のみが発生し、債務者の債務は消滅するから、付従性により抵当権も消滅する?
→令和2年3月31日民二第328号通達に言及あり!

令和2年3月31日民二第328号通達

担保権の移転についての債権者の意思表示は,担保の移転の有無について不確定な状態が存続すること
のないよう,免責的債務引受の効力発生以前にすることとされており(同条第2項),担保権の設定者が引受人以外の者である場合のその設定者の承諾も,免責的債務引受の効力発生以前にされるべきものである。

(3)登記記録について

免責的債務引受により、付記1号で新たな債務者として引受人が記録され、(旧)債務者については抹消する記号(下線)が記録される(記録例408)。

すこし特殊な取扱いとなるのが「相続」が関係する場合である。
相続の場合には、(1)相続による債務者を共同相続人に変更する登記をしたうえで、(2)相続人間での免責的債務引受契約による変更登記をするケースが多い。
この場合、(1)もともとの債務者である被相続人には抹消線(下線)は記録せず、(2)後続の債務引受による登記がなされた段階で共同相続人に抹消線(下線)を記録する、という取扱いになっている。
ただし、この相続の場合にあっても、債務引受の引受人が第三者(相続人ではない)場合には、被相続人についても抹消線(下線)を記録するという・・・。
(以上につき、「登記研究編集室 編『不動産登記実務の視点Ⅲ』(テイハン、2013年)351頁」を参照。)

(4)令和2年3月31日民二第328号通達

改正法の施行にあたり、上記通達が発出されている。

担保権の変更の原因日付について言及されているので、その点を抜粋。

担保権の変更の登記の登記原因の日付は,契約の当事者の別段の意思表示のない限り,債権者と引受人との契約による免責的債務引受である場合には債権者による通知の到達日(新法第472条第2項参照),債務者と引受人との契約による免責的債務引受である場合には債権者の承諾の日(同条第3項参照)となる。

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