不動産登記・住所・方書(住所変更・更正登記の要否)

1.有名な先例(住所更正登記の要否)

(1)昭和40年12月25日民甲第3710号通達

【要旨】

(問1)
住所証明書として添付された住民票には「市営住宅〇号」との記載がある場合に、
申請書に「市営住宅〇号」まで含めて住所と認定し、申請書に記載すべきではないか?
(問2)
(登記簿に「市営住宅〇号」と記載されたとして)後日、所有権移転登記の際に提供された印鑑証明書には「市営住宅〇号」の記載がなかった。
この場合には、移転登記の前提として、住所の更正の登記をする必要があるのではないか?

(回答1)
「市営住宅〇号」を申請書に記載することは差し支えない
申請書に記載された場合には、登記簿にも記載をすること。
(回答2)
更正の登記は要しない。

(2)整理

登記研究220号61頁に通達及び解説が掲載されている。
(掲載されている「要旨」と通達の内容が、正確に合致していないように感じる。参照する際には、解説まで含めて、確認されることを推奨。)

原則的には「登記事務の取扱上は住所の表示としては、番地までを記載すれば足りる」との見解である。
(参考として、昭和40年11月17日民甲第2866号通達が紹介されている。保証書による事前通知先の住所について、アパート名等を「住所の外」の情報として考慮することを認めたもの。)

ただし、高層建築の増加により、住所の表示方法を番地までで止めた場合には不適当と思われる事案も生じることが考えられるから「住民票等の住所証明書に『市営住宅〇号』との記載があり、かつ申請書にもその記載がある」のであれば、それをもって住所と「みなし」て登記簿に記載しても「差し支えない」とされる。

カギ括弧をしつこく利用したが、要するに「登記すべき『住所』は番地まで。ただし、住民票等に番地以降の記載があり、かつ申請書にも記載がある場合には、登記簿に記載しても良いよ。」という考え方なのである。

2.そもそも「住所」とは

(1)住民基本台帳事務処理要領(令和8年4月1日施行)

上記昭和40年通達においては、「住民基本台帳事務処理要領」が参照されている。

参考記事(外部リンク)

総務省HP「住民基本台帳等」
「住民基本台帳とは」の<関連資料>欄に「住民基本台帳事務処理要領(令和8年4月1日施行)」が掲載されている。

(2)住民基本台帳事務処理要領から抜粋

上記事務処理要領から、2箇所、抜粋したい。

P.6 「第1 総説」「3 住所の意義および認定」より

住民基本台帳法上の住民の住所は、地方自治法第10条の住民としての住所と同一であり、各人の生活の本拠をいうものである(法第4条)。
住所の認定にあたっては、客観的居住の事実を基礎とし、これに当該居住者の主観的居住意思を総合して決定する。住所の認定に疑義または争いがあるときは、事実の調査を行い、関係市町村とも協議のうえ、その真実の発見に努めるものとする。なお、認定しがたいときは、法第31条の規定による助言または勧告を求めることができる。この場合において、他の市町村長と意見を異にし、その協議がととのわないときは、法第33条の規定による決定を求める旨を申し出るものとする。

参照条文

住民基本台帳法(昭和四十二年法律第八十一号)

(住民の住所に関する法令の規定の解釈)
第四条 
住民の住所に関する法令の規定は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第十条第一項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定めるものと解釈してはならない。

(国又は都道府県の指導等)
第三十一条 
(・・・)
2 主務大臣は都道府県知事又は市町村長に対し、都道府県知事は市町村長に対し、前項の事務に関し必要があると認めるときは、報告を求め、又は助言若しくは勧告をすることができる。
(・・・)
4 都道府県知事は主務大臣に対し、市町村長は主務大臣又は都道府県知事に対し、第二項の規定による助言又は勧告を求めることができる。

(関係市町村長の意見が異なる場合の措置)
第三十三条 
市町村長は、住民の住所の認定について他の市町村長と意見を異にし、その協議がととのわないときは、都道府県知事(関係市町村が二以上の都道府県の区域内の市町村である場合には、主務大臣)に対し、その決定を求める旨を申し出なければならない。
2 主務大臣又は都道府県知事は、前項の申出を受けた場合には、その申出を受けた日から六十日以内に決定をしなければならない。
3 前項の決定は、文書をもつてし、その理由を附して関係市町村長に通知しなければならない。
4 関係市町村長は、第二項の決定に不服があるときは、前項の通知を受けた日から三十日以内に裁判所に出訴することができる。

参照条文

地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)

第十条 
市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。
② 住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。

P.11 「第2 住民基本台帳」「1 住民票」「(2) 記載事項(法第7条、法第30条の45)」「キ 住 所」より

 都道府県、郡、市、区(・・・)及び町村の名称並びに市町村の町又は字の区域の名称のほか、住居表示に関する法律(昭和37年法律第119号)に基づく住居表示が実施された区域においては、街区符号及び住居番号を、その他の区域においては地番を記載する。
 なお、団地、アパート等の居住者について、上記の記載のみでは住所が明らかでない場合には、アパート名、居室の番号まで記載し、間借人が別個に世帯を設けている場合には「何某(間貸人氏名)方」まで記載する。
 また、都道府県、郡、市、区及び町村の名称は、別個に記載することとしても差し支えない。この場合において都道府県の名称は、指定都市等においては省略してもよい。

(3)整理

p.11からの抜粋について整理したい。

ここでも原則的な住所は、つぎのように記載することになっている。

  • 「都道府県」「郡」「市」「区」「町村」「市町村の町または字の区域の名称」
  • (住居表示実施区域)街区符号及び住居番号
  • (そのほかの区域)地番

そして、以上の記載のみでは住所が明らかにならない場合には、アパート名・居室番号・「何某(間貸人氏名)方」などを追加して記載する。
追加して記載された事項も、記載された以上は「住所」になるものと考えられる。

なお「方書」という単語は、住民基本台帳事務処理要領には登場してこない。

「住⺠記録システム標準仕様書」には、「方書」という単語が頻出してくる。

参考記事(外部リンク)

総務省HP「住民記録システム標準仕様書・機能標準化基準」

「住所」の定義は「住所(方書を含む。)」と定義されている。

気になった箇所を「住民記録システム標準仕様書【第6.1版】」より抜粋。

P.60

 都市部においては大型マンションの建設が進んでおり、方書管理は必要。
 また、住所を表記する際、市区町村ごとに定める一定戸数以上の部屋番号は方書ではなく住所の枝番号として記載するため、住所記載の正確性の観点でも住所に応じた方書がひもづけられていることは必要。

大きなマンションだと「1丁目2番3-1234号」などの表記になっている住民票を見るが、このことを指していると思われる。

3.方書(かたがき)について

(1)方書(かたがき)とは

富山県南砺市のHPでは、つぎのように説明されている。
(つぎの(2)でリンク先を掲載している。)

方書(かたがき)とは、アパートやマンションなど集合住宅の建物名、居室番号などのことです。

方書がないと、アパートの場合、同じ住所に複数の世帯が存在することになり、住所の表示だけでは郵便物が正確にお届けできない等の問題が生じることがあります。これを解消し、正確な住所とするために、方書を住所の一部として住民票に記載することができます。

【方書なし】 南砺市荒木1番地100
【方書あり】 南砺市荒木1番地100 △△アパート101号室
(注意)方書部分を含めて住民票に表示することになります。

これは筆者の推測であるが、もともと「方書」は「何某(間貸人氏名)方」という記載だけを指した言葉ではなかったのだろうか?
アパート・マンションなどの集合住宅の増加により、住所の特定のために、「何某(間貸人氏名)方」のみならず、建物名や居室番号を追記するケースが一般化し、これらを含めて「方書」と呼ばれるようになったのではないだろうか?

(2)各市町での取扱い

参考記事(外部リンク)
方書(かたがき)とは、アパートやマンションなど集合住宅の建物名、居室番号などのことです。方書がないと、アパートの場合、同じ住所に複数の世帯が存在することになり、…

とくにアパート・マンションなどの集合住宅については、ときおり名称が一致していないケースを目にする。「住⺠記録システム標準仕様書」でも、この点は意識されており、「方書管理」という管理項目が設けられている。
アパート名、マンション名が入るケースだと、住民票を移転する際に、職員が確認したうえで記録していたように記憶している。

「方書の新規・変更・廃止の届出」や「入居者の住民票修正等の手続き」が用意されており、これにより方書の廃止・変更・新設が生じ、さらには個々人の住民票上の住所の記載も変更になる可能性がある。

4.不動産登記における取扱い

やっと本題である。
以上をまとめると、つぎのように整理できるか?

住民票上の住所登記された住所移転登記の前提としての名変の要否
方書あり方書なし不要
方書あり方書あり(方書の変更あり)必要?
(私見として。住所の同一に疑義が生じると思われるのではないか・・・。)
方書なし方書あり不要
(昭和40年通達による。ただし、現在においては方書廃止が疑われる事案ではないか?)
関連記事
「区制施行などの地番変更を伴わない行政区画の変更」と登記名義人の住所変更登記
1.不動産登記法・規則の確認 (1)旧不動産登記法 参照条文 旧不動産登記法(明治32年法律第24号) 第四章 登記手続第一節 通則(第二十五条―第七十七条) …
不動産登記における住所変更登記の要否について
いまさら何をという感じなのですが、ふと疑問に思ったので。 1.事例の設定 (事例1)令和2年4月1日に、BからAに売買により所有権が移転した。令和2年4月5日に…
不動産登記・住所・方書(住所変更・更正登記の要否)
1.有名な先例(住所更正登記の要否) (1)昭和40年12月25日民甲第3710号通達 【要旨】 (問1)住所証明書として添付された住民票には「市営住宅〇号」と…