目次
1.資本金の額の減少
(1)条文
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(資本金の額の減少)
第四百四十七条
株式会社は、資本金の額を減少することができる。この場合においては、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 減少する資本金の額
二 減少する資本金の額の全部又は一部を準備金とするときは、その旨及び準備金とする額
三 資本金の額の減少がその効力を生ずる日
2 前項第一号の額は、同項第三号の日における資本金の額を超えてはならない。
3 株式会社が株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合において、当該資本金の額の減少の効力が生ずる日後の資本金の額が当該日前の資本金の額を下回らないときにおける第一項の規定の適用については、同項中「株主総会の決議」とあるのは、「取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)」とする。
あくまで「資本金の額」を減少させる手続きであり、株主への財産分配の手続き(剰余金の配当)とは独立した手続きである。
(2)前提の確認
場合分けが多くなるので、以下、取扱の多い「取締役会非設置会社において、通常の減資の手続き(株主総会の特別決議によるもの)を行う。」ケースを前提とする。
2.株主総会の開催
(1)決議すべき事項
- 減少する資本金の額
- 減少する資本金の額の全部又は一部を準備金とするときは、その旨及び準備金とする額
- 資本金の額の減少がその効力を生ずる日
「減少した後の資本金の額」を決議するものではないことに注意!
また、減少額を資本準備金としなかった場合には、減少した資本金の額は「その他資本剰余金」となる。
会社計算規則(平成十八年法務省令第十三号)
(その他資本剰余金の額)
第二十七条
株式会社のその他資本剰余金の額は、第一款並びに第四節及び第五節の二に定めるところのほか、次の各号に掲げる場合に限り、当該各号に定める額が増加するものとする。
一 法第四百四十七条の規定により資本金の額を減少する場合 同条第一項第一号の額(同項第二号に規定する場合にあっては、当該額から同号の額を減じて得た額)に相当する額
二 法第四百四十八条の規定により準備金の額を減少する場合 同条第一項第一号の額(資本準備金に係る額に限り、同項第二号に規定する場合にあっては、当該額から資本準備金についての同号の額を減じて得た額)に相当する額
三 前二号に掲げるもののほか、その他資本剰余金の額を増加すべき場合 その他資本剰余金の額を増加する額として適切な額
(・・・)
ちなみに、資本準備金の額は剰余金の額を計算する際にはマイナス項目である。
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(剰余金の額)
第四百四十六条
株式会社の剰余金の額は、第一号から第四号までに掲げる額の合計額から第五号から第七号までに掲げる額の合計額を減じて得た額とする。
一 最終事業年度の末日におけるイ及びロに掲げる額の合計額からハからホまでに掲げる額の合計額を減じて得た額
イ 資産の額
ロ 自己株式の帳簿価額の合計額
ハ 負債の額
ニ 資本金及び準備金の額の合計額
ホ ハ及びニに掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
二 最終事業年度の末日後に自己株式の処分をした場合における当該自己株式の対価の額から当該自己株式の帳簿価額を控除して得た額
三 最終事業年度の末日後に資本金の額の減少をした場合における当該減少額(次条第一項第二号の額を除く。)
四 最終事業年度の末日後に準備金の額の減少をした場合における当該減少額(第四百四十八条第一項第二号の額を除く。)
五 最終事業年度の末日後に第百七十八条第一項の規定により自己株式の消却をした場合における当該自己株式の帳簿価額
六 最終事業年度の末日後に剰余金の配当をした場合における次に掲げる額の合計額
イ 第四百五十四条第一項第一号の配当財産の帳簿価額の総額(同条第四項第一号に規定する金銭分配請求権を行使した株主に割り当てた当該配当財産の帳簿価額を除く。)
ロ 第四百五十四条第四項第一号に規定する金銭分配請求権を行使した株主に交付した金銭の額の合計額
ハ 第四百五十六条に規定する基準未満株式の株主に支払った金銭の額の合計額
七 前二号に掲げるもののほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
どういったケースで、あえて「資本準備金」とするのだろうか??
(準備金の額の減少についても449条の適用がある。なお同条但書。)
(2)決議要件
特別決議である。
(株主総会の決議)
第三百九条
(・・・)
2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる株主総会の決議は、当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。この場合においては、当該決議の要件に加えて、一定の数以上の株主の賛成を要する旨その他の要件を定款で定めることを妨げない。
(・・・)
九 第四百四十七条第一項の株主総会(次のいずれにも該当する場合を除く。)
イ 定時株主総会において第四百四十七条第一項各号に掲げる事項を定めること。
ロ 第四百四十七条第一項第一号の額がイの定時株主総会の日(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、第四百三十六条第三項の承認があった日)における欠損の額として法務省令で定める方法により算定される額を超えないこと。
(・・・)
(3)株主総会の特別決議以外で決定できる場合
309条2項9号のカッコ書き【欠損填補】:普通決議でOK
447条3項【株式の発行と同時に資本金の額を減少する場合】:取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)
3.債権者保護手続き
(1)債権者保護手続きの必要性
資本金の額を減少させることで、分配可能額が増加する。
そして、株主への分配を実施すれば、会社債権者にとっては不利益となりうる。
そこで、債権者保護手続きが必要とされている。
そのため準備金の減少にも、債権者保護手続きが必要とされているが、減少させる準備金の全部を資本金とする場合には保護手続きは不要となる。
また、定時株主総会において、欠損填補の目的で準備金を減額する場合にも、保護手続きは不要となる。
逆を言えば、上記2(3)のように、決議要件が軽くなるケースにおいても債権者保護手続きは必要となる点に注意!!
(債権者の異議)
第四百四十九条
株式会社が資本金又は準備金(以下この条において「資本金等」という。)の額を減少する場合(減少する準備金の額の全部を資本金とする場合を除く。)には、当該株式会社の債権者は、当該株式会社に対し、資本金等の額の減少について異議を述べることができる。ただし、準備金の額のみを減少する場合であって、次のいずれにも該当するときは、この限りでない。
一 定時株主総会において前条第一項各号に掲げる事項を定めること。
二 前条第一項第一号の額が前号の定時株主総会の日(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、第四百三十六条第三項の承認があった日)における欠損の額として法務省令で定める方法により算定される額を超えないこと。
(・・・)
6 次の各号に掲げるものは、当該各号に定める日にその効力を生ずる。ただし、第二項から前項までの規定による手続が終了していないときは、この限りでない。
一 資本金の額の減少 第四百四十七条第一項第三号の日【資本金の額の減少がその効力を生ずる日】
二 準備金の額の減少 前条第一項第三号の日【準備金の額の減少がその効力を生ずる日】
7 株式会社は、前項各号に定める日前は、いつでも当該日を変更することができる。
(2)官報公告について
(債権者の異議)
第四百四十九条
(・・・)
2 前項の規定により株式会社の債権者が異議を述べることができる場合には、当該株式会社は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第三号の期間は、一箇月を下ることができない。
一 当該資本金等の額の減少の内容
二 当該株式会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
三 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
(・・・)
(3)各別の催告について
(債権者の異議)
第四百四十九条
(・・・)
2 前項の規定により株式会社の債権者が異議を述べることができる場合には、当該株式会社は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第三号の期間は、一箇月を下ることができない。
一 当該資本金等の額の減少の内容
二 当該株式会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
三 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
3 前項の規定にかかわらず、株式会社が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告は、することを要しない。
(・・・)
各別の催告が不要となるケースとしてのダブル公告。
- 官報公告 に加えて、
- 第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするとき
(会社の公告方法)
第九百三十九条
会社は、公告方法として、次に掲げる方法のいずれかを定款で定めることができる。
一 官報に掲載する方法
二 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
三 電子公告
2 外国会社は、公告方法として、前項各号に掲げる方法のいずれかを定めることができる。
3 会社又は外国会社が第一項第三号に掲げる方法を公告方法とする旨を定める場合には、電子公告を公告方法とする旨を定めれば足りる。この場合においては、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合の公告方法として、同項第一号又は第二号に掲げる方法のいずれかを定めることができる。
4 第一項又は第二項の規定による定めがない会社又は外国会社の公告方法は、第一項第一号の方法とする。
そのため、公告方法が「官報」の会社にあっては、449条3項による各別催告の省略はできない。
4.登記申請
(1)添付書類
- 株主総会議事録
- 株主リスト
- 債権者保護手続きを実施したことを証する書面
- (なおインターネット官報について。)
- (各別の催告については、催告をした債権者の一覧表と催告書ひな形をあわせとじ、催告をした旨の代表取締役による証明分を付した書面。)
- (異議を述べた債権者がいなければ、その旨を付記する。)
- 異議を述べた債権者がいた場合には所定の対応(449条5項)をとったことを証する書面
(債権者の異議)
第四百四十九条
(・・・)
5 債権者が第二項第三号の期間内に異議を述べたときは、株式会社は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等(信託会社及び信託業務を営む金融機関(金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(昭和十八年法律第四十三号)第一条第一項の認可を受けた金融機関をいう。)をいう。以下同じ。)に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該資本金等の額の減少をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。
(・・・)
債権者からの意義があった場合の対応方法はつぎのとおり。
- 弁済
- 相当の担保を提供
- 信託
- 債権者を害するおそれがないときには対応不要
4点目については、いつか記事をつくりたい。
(2)登録免許税
3万円(別表第一24号ツ)。